高橋ヨシキ監督 INTER FILM 新宿武蔵野館
車通りの少ない見晴らしの良い交差点の信号待ちをする集団・・・全く車が来る気配も無いのですが、信号もなかなか変わらず、その集団は横断しません。そんな中、中年の刑事深間(川瀬陽太)は赤信号ではありますが、車が通行していない事から赤信号を渡って・・・というのが冒頭です。
1番近い映画は佐伯清監督「昭和残侠伝」だと思います。
暴力や事故、誰しも遭遇したくはありません。だからこそルールやモラルを守って生きていると思います。しかし、それでも暴力は無くなった事になりませんし、いつの世も悲劇的な事件が起こります。少なくする努力やルールを必要とはしていますけれど、恐らく簡単には無くならないと思います。人間はそこまで賢くないと思いますし、すべてを規制する事は出来ないです。
また同時に誰もが加害者になる可能性があったりします。暴力や力が伴う事もあるでしょうし、そこに力が働かなくとも、加害者になることはありえます。権力を使ってわがままを強いられる事もあるでしょうし、目上だからと言って理不尽な目に会う事もあると思います。これも一種の暴力でしょうし、こういう事になっている(地域なり、個人間だったり、会社のような組織内慣例もそうでしょう)という事象も数多あると思います。
そこにNOを言い立てるのは、なかなか空気を読まない姿勢が求められますし、関係性には齟齬が生まれるでしょう。でも、だからと言って、それをしないと自分が消耗する、これ以上は耐えられない、という場面では、反抗する事も必要なのではないか?と思います。恐らくそういう時に暴力がある場合と無い場合では選択肢が違ってくるでしょう。例えば、アメリカ合衆国が銃社会であるのは国是なのかも知れません、国民にとって政府が間違った場合は実力を持って排除する事を保証されている、とも解釈出来るからです。
そんなような事を考えさせられる映画です。そしてこれは映画なんだから、そういう暴力を描く事がエンターテイメントになりうる事を目指した映画、なので、昭和残侠伝みたいなんです。
おそらく結構な低予算映画だと思いますけれど、とにかく絵が素晴らしいです、特に空が映る場面は軒並み素晴らしい。この色使いが最も特徴的ですし素晴らしかったと思います。
また、ちょっとした『良かれと思った行為を過剰に行った結果がディストピア』と言う意味で新しいとも思いました。清潔を過度に維持しようとすれば、そこは人間が生きられない環境になってしまったかのような感じです。それに、過度の安心を求める傾向は年々強くなっていると思います、ですが、非常に残念で当たり前の事実ですけれど、どんなに気をつけていても事件や事故は起こる理不尽な世界に住んでいて、そして結局みんないつかは死んでしまう存在なんです。もちろんだからこそ愛おしい訳ですけれど。
そういうことになっている、がまかり通る、これまで通りが最高、という感覚に怒りを覚えた事がある人はほとんどだと思いますが、そんな人に向けた作品。
そして、でも全然あり得ない話しじゃないな、という部分も感じられました。
主演の川瀬さんの魅力が素晴らしく、大変良かったです。恐らく、私は「シン・ゴジラ」の一瞬でしか観た事が無いと思いますが、とても印象に残っていますし、大好きです。今作も素晴らしくはまっていると思います。
演者はどなたも素晴らしく、中でも、ある場面で、金の力で行う暴力をふるう2人組の青年は、非常に憤りを覚えましたし、そこまで憤りを覚えるという演技をしている、と言う意味で素晴らしかったです。
ちゃんと暴力の暴力性、その結末の異常さを逃げずに描いているのも素晴らしかったですし、安心と安全を求めるのは普通の事なのに、それが行き過ぎてしまった社会を描いているのも、流石と思いました。
音楽も決して悪くないのですが、少しクドイと感じる部分もありました、もっと低い所で鳴っててほしかったし、微音でも良かった気がします。
それと、ただアメリカの街並みってだけで絵になるの、やはり私が日本しか知らないからなのかも知れませんけれど、やはり凄く良かったです。
もちろん、ツッコミどころもあるにはあるんですが、そんな無粋な事は気にならない、ヨシキさんの「俺はこれが魅せたいんじゃ~」という情熱を感じられる映画、舞台挨拶見れて本当に良かったです!
当たり前ですが、暴力をふるいたくもないし、ふるわれたくもないです。話し合いで解決したい。しかし、話し合いが成立しない場面というのは結構ありますし、そもそも人間同士が分かり合えるが稀だからこそ、その瞬間に意味があり、尊いと思うわけです。
それと、私は靴の音が好きなんですけれど、この作品の靴の音はかなり良かったと思います。
全国の富士見町に住んでいる皆様にオススメ致します。