井の頭歯科

「バビ・ヤール」を観ました

2022年10月28日 (金) 09:21

 

 

セルゲイ・ロズニツァ監督     SUNNY FILM     シアターイメージフォーラム
この作品に気付けたのは、友人の先生が観られていたからで、監督作品は以前に観に行こうとしたのですが、チケットが売り切れていたので、残念ながら見られなかった作品です。ですので、この監督作品は初めて見た事になります。
全編に渡って(厳密にいうと、恐らくラストの数カットは、監督自ら撮られたかも知れませんが)、基本的にフッテージした、つまり何処かの誰かが、もしくは国家や当時の体制が残した映像記録であり、様々なモノを繋ぎ合わせて作品にしています。つまり監督が撮ろうとして撮った映像作品では無い、というのが最も特徴だと思います。しかし、まぎれもなく事実が映し出されています。恐ろしいまでの。本当の本当には、確かめようがないのですが、嘘をつく理由が無いので、本当の出来事だと思います。
ドキュメンタリー映画であっても、見せ方、モノローグ、音楽、編集等々によって、割合簡単に、観客を一定方向に引っ張る事は出来ると思います。もちろん今作も、監督の目的に沿った映像を繋ぎ合わせていますし、監督の意図もあるでしょう。しかし、それよりも、事実が、何が起こって、その過程が、結果が、画面に映し出されていると思います。かなりの衝撃作です。この手法でしか味わえないですし、テーマに合っていると思います。
1941年6月のウクライナ、キーウ。ナチスドイツ軍によるバルバロッサ作戦の開始により、ウクライナはナチスドイツの支配下に置かれます。その侵攻の場面から映画は始まります。
その後、ウクライナの人々は、ヒトラーを、解放者とまで呼んでいます。それまでのソビエト連邦の支配がどのような状況であったか?は示されませんが、解放者と呼びたくなる状況だったのでしょう。
しかし、ナチスドイツの支配下に置かれた後に、市街地で爆発事件が起こります。この爆破事件は撤退したソビエト連邦の軍が撤退前に仕掛け、遠隔起爆させたのですが、市民はこのテロリズムをユダヤ民に向け・・・というのが冒頭30分くらいだと思います。かなりの衝撃ですし、撤退していったソビエト連邦の統治が効かなくて、ナチスドイツ軍が統治を始める辺りまでの、市民同士での小競り合いの映像もあるのですが、物凄い衝撃があります・・・
本当に、本当に恐ろしい映画でした・・・
何と言いますか、映画化する為に撮られた映像ではない、という事が、より事実性を顕著にし、だからこそ、映っている、動かしがたい事実を、強く印象付けるのですが、実はまだこの映画の序盤でして、この後、さらなる驚愕の事実が描かれています・・・
この映画を出来るだけ多くの方が目にすべきだと思います。
恐らく、ナチスドイツがユダヤ人に対する処遇なり思想を、ウクライナのユダヤの方も、少しは知っていたのではないか?と思うのです。それなのに、粛々と、列をなして歩いて向かう先の渓谷バビ・ヤールに向かうのが、私には恐ろしく感じます。この先で何が起こるのか?を知っていたのではないか?と思うと・・・そして、市民の側が何かしらの抵抗をした形跡が無いのも、酷く恐ろしい。
そして、この後ウクライナの人々はソビエト連邦に再び解放、支配された後の歓迎ぶり、その後のある裁判、そして裁判結果に基づく刑の執行と、それを捉えているウクライナの人々の様子が写されるのですが、本当に恐ろしい。
人間という生き物の、救えない、愚かさ、底なし沼のような感覚を覚えました、もちろん私という駄人を筆頭に。
だからこそ、知る事の重要性を感じますし、ウクライナ人である監督がこの作品を作り上げた事の意義を強く感じます。
人間である人すべてに、オススメ致します。

「画家と泥棒」を観ました

2022年10月25日 (火) 11:04

 

 

ベンジャミン・リー監督     MadeGOOD 1Films     U-NEXT

 

映画ライターの村山章さんが衝撃の作品!とご紹介していたのと、U-NEXTさんでなら見れるので、観ました。村山さんのご紹介された映画の仲では私の1番は「手遅れの過去」デニス・ホーク監督です。今作も衝撃がありました。今作はドキュメンタリー映画です。

人間の身長ほどの大きさのキャンバスに白鳥を描いていく女性のプライベート映像が流れて、画廊にかけられ・・・というのが冒頭です。

女性画家バルボラ・キルシコワはノルウェイのオスロに暮らすチェコ出身です。そしてこの作家の白鳥の絵画を盗んだ泥棒はベルティル、30代後半のリアルな犯罪者で薬物中毒者です。

絵画が盗まれた後、犯人が捕まって、裁判が行われ、その裁判でバルボラはベルティルと接触をし、そして絵画の行方を尋ねるものの、分からなかったのですが、モデルとして描く事を決め、画家と泥棒の奇妙な関係が始まります。

画家はかなり写実的な絵画の描き手で、だからこそ、絵画の評価は分かりませんが、写真のようでありので、似ているか似ていないかで言えば似ていると思いますし、綺麗です。綺麗なだけなのかも知れませんけれど、後半に出てくる、確かにこれは・・・という一連の絵画作品は、ああ、この人やっぱり、的な恐ろしさがあって。

これは視る、視られる関係の映画なのですけれど、つまり「燃ゆる女の肖像」的な関係でありながら、びっくりする展開があって、というか、まぁ正直に言えば編集による面白さがあって、確かにびっくりします。

何と言いますか、闇を覗くものは、闇から覗き込まれている、という事かもしれません。

すっごくヘンテコリンなドキュメンタリー映画とも言えます。

絵画に興味がある方にオススメ致します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレアリの感想だと、やはり泥棒の恐ろしさよりも、画家の恐ろしさ、の方が際立つ作品ですね・・・どうしても見せられる順番で、あくまで画家が泥棒に寄り添っているように見えて、実際の所は、画家が泥棒の弱さやダメな部分に吸い寄せられている、とも言えます。本当にヤバいのは、画家なんですよね・・・でも芸術家ってこういう人の事じゃないか?とも思います。

 

 

写実的な絵は全然嫌いじゃないですし、象徴主義も好きですけれど、この映画の画家バルボラの絵を綺麗だとは思いますが、正直そこまで素晴らしい作品か?と最初の2枚では思えませんでしたが、後に判明してくる暗い作品は好みの傾向ではあるのですが、もっと、という感じはしました。まるで絵画の事は知らない全くのド素人ですけれど、好みの話し、は誰でも出来ると思います。

 

 

ただ、なんとなく、画家は絵が売れる、とか有名になる、という部分に拘りが無いとも言えますし、本当はあるからこそ、ドキュメンタリー映画に出ているのでは?とも思えるのですが、正直何処まで考えているのか?分かりませんでした。今考えてみても、どっちとも言えない気がします。ただ、描かれているモチーフ、特に人間というよりは、自分の弱さとか、ダメさに強い興味があり、ダメになりたい、までは言い過ぎかもしれませんけれど、何処かに破滅願望のようなモノを感じますし、はっきり死を感じます。そういう風に見せる文学者や画家は多いと思いますがほとんどが男性で、しかも、その手の見せ方を特定の女性に魅せてなんとかしよう(性的関係に持ち込もう)という男性は多いものの、女性のタイプは珍しいと思いますし、実際に何処までベルティルに、いや、ベルティルの何処にそこまでの弱さを感じているのか?はちょっと分からなかったです。

 

 

ベルティルは環境がそうさせてしまった、と言える部分も多いでしょうけれど、しかし、良く描かれるタイプのワルであり、画家と比べて、普通の人に見えます。特別凄いのは、刑務所を出ているのに、割合彼女が絶えない部分ですね、ホントにスゴイ・・・

 

 

刑務所に入る前の顔つきと目の危うさに、薬物中毒者の特徴を感じます、リアルな、かなりリアルなモノだと思いますし、口調、喋り方の、ろれつが回っていない感含めて、やはり薬物中毒者のソレを感じますけれど、刑務所に入る事で立ち直れている、と感じられますし、これは薬物中毒の恐ろしさ、常用性や再犯率を考えると。かなり凄い事だと思います。

 

 

で、ラストのビックリですけれど、あれが、どこまでの感覚なのか、そして何と言いますか、凄く女性的な感覚でしょうね、とは思います。ちょっと、正直、引く。いや、正直ドン引きです・・・そう言う意味で衝撃的。 この映画の仲で1番共感出来たの、バルボラの今の彼氏さんです・・・この人の話している事、まんま、その通りだと思います。でも、これが、芸術家のパートナーの苦労なのかも、とは思いました・・・ 薬物に縋っているのと、芸術に魅入られてしまっているのだと、どちらが危険なのか?と言えば、いろいろなケースがあると思いますけれど、今作の画家ベルボラと泥棒ベルティルの場合は圧倒的に、バルボラがヤバい。なんか、途中まではあくまで撮影される事に意識的で自己演出出来ていた感じがするのですが、途中から、マジで歯止めが効かなくなってきているように、視えなくもない。という部分も、また恐ろしい。

「秘密の森の、その向こう」を観ました

2022年10月21日 (金) 08:52

 

セリーヌ・シアマ監督     ギャガ     ル・シネマ

 

 

あまりに、前作の「燃ゆる女の肖像」(の詳しい感想は こちら http://www.inokashira-dental.jp/blog/?p=4538 )が素晴らしかったので、何も情報を入れないで観に行きました。少し期待し過ぎたかも知れませんし、子供、というかつて私もそうでしたし、親の存在からすればいつまでも、子供なんでしょうけれど、おじさんとして生きている現状は子供の事はあまり考えない生活なので・・・
クロスワードパズルを解いていたおばあさんと子供ですが、子供がさよなら、と言って部屋から出て行きます、その後、更にとなりの部屋に入り、また老人にさようならを告げ、さらに隣りの部屋で同じように・・・というのが冒頭です。
原題は「Petite  Maman」フランス語は全然分かりませんが、小さいお母さん、と言ったところでしょうか?
予告編でも、もっと言えばポスターをよく見ると、ココにも書いてあります・・・ただ、観終わった後でも、確実にそうだ、とは言えないような気もするのですが・・・
主人公である8歳の女の子ネリーは母マリオンの母である、祖母が亡くなった事で、森の中にある一軒家である祖母の家を片付けに行き、そこで傷心の母は突然いなくなってしまい、父と2人で部屋を片付ける事に。その際ネリーは森で遊んでいると、同世代の女の子に会って仲良くなるのですが、彼女の名前はマリオンというのです。
マリオンの家には母が居たり、自分の家には父がいるのですが、虚実ない交ぜのような感じで、夢なのか、映画内現実なのか、凄く曖昧模糊となっています。凄く夢心地な展開です。
しかもはっきりと森の少女マリオンが母だと決定的には語られないですし、急に母が居なくなってしまう理由も少し飲み込みにくい気がします、が、そういう事を考える映画では無いのだと思います。
それでも考えたくなる感じにはなりますし、凄く象徴的に最初に出されていますけれど、クロスワードを解かされているかのような感覚になる映画体験。
これは、やはり女性に向けて作られた映画であり、女性の女性性を扱っているのではないか?と思います、役割とか立場で変わり、しかも出産というイニシエーションのある性でないと理解出来ないのではないか?と推察してしまいます。本当に人は性別で多くの隔たりがあるのだな、と個人的には思いますし、結局のところ同性であっても誰とも理解はしえないのだな、とも思います。だからこそ、人は語ったり、描いたり、奏でたり、踊ったりして、感情表現を発達させたのだとも思います。究極的には誰とも理解し得ないのだけれど、だからこそ、コミュニケーションをとる事は重要なのだと思います。
それでも、前作の「燃ゆる女の肖像」は非常に緻密に組み上げられた練られた脚本で、今作はもっと感覚を味わう作品なので、私の理解や感覚が鈍すぎて、より分からない状況になってしまったのかも知れません、いつもの事なんですけれど、映画ってそれでも観ている間は、現実の生活を忘れさせてくれるので、やはり楽しいです。
女性の方々にオススメ致します。

「ワイルドサイドをほっつき歩け」を読みました

2022年10月18日 (火) 10:34
ブレイディみかこ著     筑摩書房
患者さんからいただいたので読みました!
ブレイディみかこさん、初めて読むのですが、ラジオ番組にゲスト出演された時に聞いたことがある方です。イギリス在住の保育士でライターの方ですね。有名なのは「僕はイエローでホワイトでちょっとブルー」という書籍なんですけれど、こちらは未読です。
ブレグジット、EUからイギリスが離脱を決定した、という時期から2020年くらいまでのイギリスに住む著者の周囲の人々、とくに50代を越えた、著者と年齢的に近い、主に男性の、つまりおっさんの生態の観察エッセイです。
日本に住むとは言え、同じおっさん(というかもう初老を通り過ぎた気がします・・・)である私にも身につまされる話しが、とても多かったです。特にお酒関連の話題は、非常に胸が痛くなります・・・
ただ、50代を、子供の頃はとてつもないオジサンと考えてきましたけれど、実際に50代になってもなお、人間として残念ながら高校生くらいから成長がほとんどない、というのが悲しい事実です。人によっては成長される人もいらっしゃるとは思いますが、知識は増やせても、教養に結びつかない、という部分で、本当に悲しくなります・・・
この書籍に登場する、実際のところの人物は、妙に偏った知識や考え方に見えるようでいても、実際の所はそうでもなく、信条というよりは、生活のサイクルに伴って癖として見についた思考、とでも言えるようなモノであり、それこそ誰しもが当然のように影響を受けているのであって、それはイングランドでも日本でもジンバブエでも変わらない気がします、イギリスもジンバブエも行った事が無いですけれど・・・
それと、イギリスにおけるNHS(National Health Service)がどのように機能しているのか?を知る事が出来たのは良かったです。本当に日本って恵まれていますし、そして世界で1番(医療的な意味で)成功した社会主義国だと思います。社会主義が何を指すのか?によっていろいろに考えられるかも知れませんけれど、医療的な、公平性のある機会の平等性と言えるのではないか?と思います。もちろん完全な平等なんてないですし、公平も無いのですが、比較的、世界の状況を考えて、と言う意味です。NHKが中立な立場を考慮しているのと同じで、NHKが中立な存在だとか、NHKが中立を決定出来ている、という事でも無くて、中立性を求めている、という事です。言葉って本当に難ししく、定義の大切さをいつも感じます。
登場人物の中でも、特にショーンに、近い未来と、行く末を考えさせられて、暗澹たる気持ちになりますけれど、でも、自分がそういう人間なんで仕方ないかな、とも思います。
ついでに、数人だけ、私の周囲の様子を、ワイルドサイドを歩いているおっさんたちの日本の状況を報告しつつ(ただし本人たちの許可を取ってないのでもちろん仮名)あくまで私の周囲の愛すべきおじさんたちへのエールを送りたいです。
40代中盤のAくん、酒場で知り合った友人であるが、なかなかな拘りの強い人なのに、人懐っこく、イイ仲の女でもいないのか、と30代までは心配したものだが、それも過去の話しになり、今は親族のトラブルに・・・いろいろ大変だけれど、行動的。案外保守的。
50代中盤のBさん、いきつけの店が同じで知り合いましたが、博学で息子もいるのに、どうやって時間を捻出しているのか、様々な文化的な事に身を費やしつつ、最近新たな彼女の噂が・・・持ってる人間は違う。
50代前半のCさん、長い友人だが、子供はいない夫婦。でも、帰宅難民(自ら望んでの)。大変そうだけど、まぁ中年を過ぎても己の欲望を飼い慣らせる人間は稀有なんだから案外普通なのか?健康面が心配。
40代中盤のDくん、おしゃれ、というのでは無く自分のスタイルを持っている、目指そうとしているおっさん。割合最近結婚してもいい友人。なのは奥さんが出来た人だからだと思う。細かな趣味趣向が似ていて怖い。ホームシアターがうらやましい。
日本のおっさんたちも頑張ってる!

「サクラメント 死の楽園」を観ました

2022年10月14日 (金) 09:19

 

 

タイ・ウエスト監督     東京テアトル     UーNEXT
宗教と政治の話しがあると思いだすのは人民寺院の事なんですけれど、高橋ヨシキさんが話題に挙げていた映画で観た事が無かったので、観てみました。U-NEXTさんはこういう作品もラインナップが充実していて嬉しいです。
いわゆるモキュメンタリ―映画、ドキュメンタリー調ではありますが、全然編集していますし、正直ツッコミどころもたくさんあるんですけれど、この短さで宗教という名のある種も残虐性が表現出来ている所が凄い作品です。
病気がちで離れた施設で生活している妹に久しぶりに会いに行く、という男性に、ドキュメンタリー作家とカメラマンが同行して、感動的な兄妹再開シーンを撮ろうとするのですが・・・というのが冒頭です。
まぁおよそ2日の出来事に無理やりまとめていますけれど、どう考えても人民寺院を扱った作品ですよね・・・
そう考えると、意義深いとも言えますし、極端だとも言えると思います。
あくまで個人的な考えでしかありませんし、他の人が自由に考えたり信仰を持ったりするのは自由であるのは当たり前だとして、他者に信仰を強要するのは論外ですし、布教活動にルールを設けて、その活動をコントロールする必要はあると思います。そういう事を無視している団体は、カルトに近くなると思いますし、もし、本当にその人の幸せや人類の幸せを願うのであれば、お布施というこの社会で通用する金銭を授受しないで行ってもらいたいものです。でも、信じる人にとっては何も響かないでしょうし、マインドコントロールされる自由という愚行権に近い権利があるかも知れません、すべてを自分で判断する事を諦めたり、投げ出したり、責任を負いたくないという人の権利があるかも知れない、と考えると、なんだか恐ろしくなります・・・
それでも、自分の事を自分で決める自由を簡単に手放す事は堕落の一種だと思いますし、意思の重みを理解する事は、生きている、という事に直結する行為だと思います。これは槙島聖護も同様の事を言っていますし、全く同感です。何かにすがる、その気持ちは理解出来るけれど、でもそれでは困難な状況に抗う煌きが生まれないと思います。
宗教の危うい面を観てみたい方に、人民寺院というホントにあった宗教団体に興味がある方にオススメ致します。
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