西浦正記 中田秀夫監督 Netflix
事実に基づく物語
となっている、いわゆる東日本大震災時の福島第一原発事故に対応した関係者の証言を聞いた証言や事故調査委員会の報告、そして主要登場人物の1人である吉田所長の報告書から門田隆将が書籍化した本を、原案に、脚本化、映画化したものです。
あくまで一視聴者の私としては、全然終息していない、というかいまだにいつ終息するかワカラナイ、そして天災と人災の複雑に絡み合った巨大な事象を、ドラマ、物語化する事でより分かりやすく視聴者に訴える事が出来る点は評価しますけれど、それ以上に、ドラマ化して良いのか?という疑問はあります。ドラマ化する事で掬い切れない 何か が確実にあります・・・
そして、わざわざ事実に基づく物語、という注釈を入れないといけないのも、厳しい所だと思います。言葉として定義として、物語、とは、物語る人の視点で語られるので、あくまで事実、とは言えない部分が入りますし、ドラマって、演劇芝居する事なんで、リアルとは違います、そしてもっとエモーショナルに、情動的に、扇動的に、拡大解釈する事が得意な分野です。なので、この言葉は毎回(全8回)掲げられるんですけれど、どのように読めるか?個人的に解釈すると、そう感じた人がいたという事を基にエモーショナルにエンタメ化しました、という風に見える、という事です。見終わってからは強くそう感じます。エンタメ化していいのか?本当に?と思う訳です。
いわゆる、政治家が、しっかりやります、と言って全然やってなかった、という事実、しっかり、と言わないとやってる感が出ないと、言ってる本人も理解している時に感じる欺瞞を感じます。
さらに、原案になってる書籍の作者門田さんという方を知らなかったのでwiki情報を鵜呑みにするわけではないのですが、なかなか信憑性、と言う意味で疑問が残る方の様です・・・著作を一つも読んでいないので、分からないですけれど、ちょっと全部正しい表記で事実を簡単に言えるのか?という感じがしました。
ので、どんな作品でも同じなんですけれど、そういう原案やドラマ化であり物語であって、そう捉える事も出来る、くらいの感覚で観ています。でも、誰のどんな作品でも同じですよね。簡単に言うとリテラシーがあった方が良いですよね、という事です。特に、今作はエンターテイメント作品、としていますし、ドラマ化する事で、どんな立場の人が、どんな風にみられたいのか、という事くらいは理解しながら視聴しました。いつもですけれどね。
役者さんは大変どの方も良かったです。特に役所広司さんの演技は重みも感じますし、心の奥にある、この現場の厳しさ、さらに本社や政治家含む命令を下す側の安易さへの怒りを隠しながらも、冷静で穏やかさを保ちたい感じが滲み出ていて良かったです。本当に複雑な立場で、関係者の責任と命、もっと言えば国土を背負った人間の言葉で、モデルの吉田さんの調書を読んでみたくなりました。そう思わせてくれたのは、役所広司さんのおかげですね。
さらに、光石研さんの素晴らしさも大きかったです。この方も結局は中間管理職です、上には政治家と話さなければならない立場の人もいます。ある種冷静で、吉田さんと立場は違うけれど、信頼関係があるからこそ、言える言葉が多かったように思います。それをにじませる光石さんの演技、目の演技は大変良かったです。最近はこの光石さんが出ている作品、特に「由宇子の天秤」が凄かったですし、今後も注目していきたい役者さん。
さらに小林薫が、いい味を足してくれます。小さな立場ですけれど、凄く良かった。
そして美術は、かなりお金かかっていますね。流石Netflix!照明もなかなかに良かったと思います。
逆に、CGについては、良い部分と、泡が目立つ部分があって、そこが気になりました。
また、あんまり言いたくないんですけれどテンポが凄くスローなですよね・・・スローモーションの多用は、かなりテンポを悪くしてしまうと思います。群像劇を描いているので、しかも緊迫感がありますから、ある程度テンポは必要です。メリハリが無いといいますか、エモーショナルにしたいんでしょうけれど、そればっかりじゃ・・・
それと、確かに死者に対する描写、難しいです。でも、だからと言って、とある行為をするのって流石にちょっと気になりました。もし、事実であれば、事実とは概ねそういう物だ、と言うしかないですけれど、演出として、工夫が足りないと思います。
あと、いくら何でも、現地の福島の人々の視点があまりに無さすぎたと思います、これはもう少し配慮が合って良かったと思います。
脚本上の終着点も、もう少し上手く出来たんじゃないでしょうか?凄く尻切れトンボな感覚。円環構造にしたかったんでしょうけれど、全然上手くない。
それでも、エンタメ化は飲み込みにくいのですが、既に関係ない、感覚になってしまっている感じが凄くするので、もう少し思い出されるべき事件だと思いますけれど、うちの国の文化的負の側面として、すぐに忘却、責任転嫁、というのがあって、事後検証とかが重要視されない部分があると思います、先の戦争しかり。責任を負うべき人がお子にもいなくなる、という恐ろしい沼地なわけです。
それと、あんまり言っても仕方ない事なんでしょうけれど、なんで東京電力って表記じゃないんでしょうね・・・でも最後の説明文だと東京電力って表記されてて、なんか忖度的な何かを感じますね。
だから今作のようにエンタメ化したモノでも思い出す、と言う意味で意味があるとも言えるし、こうやってエンタメ化してスッキリして、結局消費してしまっただけ、という意味になる可能性もある。なんとなく、今作は後者になってしまいそうで、残念。