オリヴィア・ワイルド監督 ワーナーブラザーズ Netflix
フローレンス・ピューが出演しているので、観てみようと思いました。何と言っても話題作で高評価の高い俳優さんですし、アリ・アスター監督「ミッドサマー」セバスティアン・レリオ監督「聖なる証明」が良かったからです。
フローレンス・ピューの勝手に私が感じる凄い所は顔だと思ってます。顔の表情、角度によって全然違う人に見えるんですね。端正なお顔立ちですし、美人の部類に入るのは間違いないんでしょうけれど、結構完全とは言えない。しかも、急に老けて見えたり、物凄く若く見えたり、目元が上がって見えたり、たれ目にみえたり、何というか表情が凄く豊かで、その時に必要な顔が出来る人に見える。決してプロポーションだって良いとは言えない(もちろん自分の事は神棚にあげておいての発言)とも思うのですが、それが「普通」に見える要素なのでは無いか?普遍性を担保できる演者なのではないか?と思うのです。様々な立場の女性が感情移入出来る(中ではギリギリの美しさ、自分でもこの人であれば私でもあり得ると思える常識感覚の最も上位存在 と書くので全世界の半分を敵に回すのではあるが )けれど、リアル。
そんな彼女が主演作、結構期待したのですが、これがなかなか考えさせられる作りになっていまして。
クラッシックなロックがかかる中、3組の夫婦がホームパーティをしている1950年代風の部屋の一室。頭の上にトレーを乗せ、その上に更にコップに入った酒を乗せて踊る3人の女。はやし立てる男性3人・・・というのが冒頭です。
凄く考えさせられる。
あくまで個人的な見解、そう感じ取った、とは言えるのですが、かなり解釈の開かれた作品です。
砂漠の中に築かれたヴィクトリータウンで豪華な暮らしをするアリス(フローレンス・ピュー)と夫ジャック(ハリー・スタイルズ 初めて観た気がしますけれど、若い頃のケヴィン・ベーコンのよう!)はジャックの仕事の内容は知らされていませんが、幸せな生活をしています。なんでこんなに贅沢なのか?なんでこんなコミュニティなのか?いろいろ気にはなるのですが、判然としません。
そんな中、不可思議な行動をとる女性が居て・・・もういろいろ不穏!
ネタバレ無しで言える事は少ないのですが、1950年代、というのが絶妙な感じです。
ある形態というのはずっとそのままの形では推移しない、という事なんでしょうけれど。
とにかくフローレンス・ピューを堪能できる作品です。笑顔の、困惑の、哀願する、絶望する、そんなフローレンス・ピューの演技が本当に素晴らしいです。
基本女性向けの作品でしょうけれど、男性が観た方が勉強になる作品。
役割について、考えてみたい人にオススメ致します。
アテンションプリーズ!
ここからはネタバレありの感想になります。未見の方はご遠慮ください。
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まぁある種「マトリックス」な映画ですよね。でも、現実と非現実の境目とかアクションが見せたいわけじゃない。あくまで役割とか男女の尊厳とかの話し。あるいは個人の尊厳をどう扱えばよいのか?という疑問を呈している。その上でのマトリックス構造なわけです。 他にも解釈の仕方はあると思いますけれど、そう考えるのが自然な気がします。
能動的に受け取りに行く人には楽しめる作品ですし、細かな伏線演出、気付けなかった部分もあるとは思いますが、恐らく、監督の主旨は理解出来たと思います。
監督は女性で「ブックスマート! 卒業前夜のパーティデビュー」の方。なるほど、振り切った今作ですね、という感じです。しかも今作には出演もしていて、非常に重要で、ちょっと、えってなるアリスの1番の友人バニー役です。個人的には凄く、キツい性格な人なんじゃなかろうか、というメイクでの演出は良かったと思いますけど。ちょっと気になる部分もあって(後述)。
さて、このよく分からないけれど豪奢な生活を送りつつ、いろいろ秘密に塗れていて、しかも1950年代風、の生活様式の中、夢の様な暮らしです。 その中で1名だけ、非常に違和感を覚えさせる女性が出てきて、そのマーガレットはビクトリータウンが変だ、と訴えている訳です。
しかも、その後自傷しているし、その場面をアリスは目撃している。その混乱の中で赤い服を着た明らかに異質のスタッフが出現、その場を警察でも救急でもないのに強引に取り繕う訳です。アリスも最初は傍観者側だったのに、その後の飛行機事故を見てしまい、助けに行く事で、秘密の境目を越境した。
最初は、ロスアラモス近くの施設で、核実験を行っている科学者の家族の話しなのかと思ってました、砂漠だし、機密だし、兵器らしい、と言われると最初に頭に浮かんだのは核兵器開発の話しなのかと。 でも全然違った・・・
まず、ビクトリータウンって名前がダサい感じで、アメリカンですなぁ、なんて思ってました。でも、これも伏線でありヒントだったわけです。
結論から言うと、この作品は、夫ジャックが現実世界で確かにアリスと結婚しているのですが、あくまで高収入である医師がアリスであり、自分はプログラマーのようなその日暮らしで、恐らく収入も低く、しかし家事も出来ないのでアリスから捨てられかねない、という危機感を持ったジャックが、かなりいびつではあるが、男尊女卑思想、というよりももっと単純(だからたちが悪いのだけれど)に男を崇め奉ってくれる1950年代を模した世界を仮想現実にした、かなりの制約のある企業と契約して、アリスも自分も望んだ、と虚偽の承認をした上で、マトリックスのような、トータルリコールのような、装置に入ったんだと思います。
だから、物凄く古い価値観で、夫は働き、妻は家事を行い、妻は夫にかしづく、世界観になっている。
という部分までは分かるし、男性であれば、とても魅力的な世界でもある。虚偽の承認はアウトだけれど。恐らく女性の側でも、男尊女卑が心地よい人もいるでしょう。
設定として上手いし、見せ方も悪くない。
ただ、ちょっといただけない、飲み込みにくい、という部分もあって・・・
まず、アリス。確かに気になるし、そしてみんな嘘をついているのだろうし、オカシイ。でもだからと言って、おかしなことをどうにかする、暴くためにもう少し相手に取り込まれる、とか協力しつつ探る、とかもう少し頭を使って欲しかった・・・なんだか切羽詰まり過ぎ。確かに悪夢的だけれど、そのレベルと一緒になっていてはこの世界の秘密を探るのが難しくなる・・・
それに、どうして仮想現実なのであれば、危険な「本社」を砂漠の中のビクトリータウンの近くに接して作るんだよ~もっと巧妙に隠せば良かったのでは?そもそも「本社」を置かなければ良かったのでは?仮想現実なんだから、何絵も出来るのに!あと「本社」といいつつ、ヘンテコリンな平屋みたいな感じでデザイン的にもう少し工夫が欲しかったけれど、多分良いアイディアが無かったんだと思います、残念。もっとモニュメント的で良かったんじゃないかな。外壁に立ってるだけで、窓に触っただけで、というのも、もう少し捻りが欲しい。
そしてバニーが秘密を知っているのであれば、ジャックが昇給したパーティでもう少し上手く説得なり、なんらかの秘密を吐露しても良かったんじゃないかな。ジャックに危害を加えた後、急に豹変、知ってたってなるのちょっと変。
タイトルは凄く気が利いてて夫が妻に言うセリフのいかに大丈夫じゃないのか?が良く分かる。男性はおおむね、何も考えていない上に、その場しのぎで、欲望に忠実。その欲望も凄く即物的。仕事、女、酒でだいたいOK。そうでない場合は、きっとよりひねくれて何かしらの邪な欲望があるように、見えてしまう。でも根源的にはきっと、仕事、女、酒でOKだと思う。
しかし、ビクトリータウンとかビクトリープロジェクトって名前のセンスが幼児期のようですが、まぁ男性が幼児から成長しないでも良いような社会歴史が長かったせいなんで、ある意味しょうがないのかも。今後は変わっていくと思うけれど、適応できる男性は少数派なので、世界はどうなてしまうのでしょうかね。
もう少し上手く出来た気もしますけれど、なかなかな作品でした。
エスキル・フォクト監督
原題「De uskyldige/The Innocents」無垢なる という感じでしょうか?
団地に引っ越してきたイーダ(恐らく6~8歳)と姉アナ(13歳くらい?ローティーン)と両親の4人暮らしです。しかしアナは自閉症な為に、両親はアナに関心があり、イーダはかなりほっとかれているように見えます。しかし、この団地でイーダは友達が出来て・・・というのが冒頭です。
ネタバレ無しの感想ですが、大友克洋著の漫画「童夢」とジョッシュ・トランク監督の「クロニクル」について知っている人にはネタバレになってしまう部分はありますが、その点は含んでくださいませ。
とにかく、大友克洋著「童夢」が元ネタ、と監督であるエスキル・フォクトさんもおっしゃっているようなので、ネタバレにはならないと思いますが、必要以上に、「童夢」です。原作とい言えるレベル、は言い過ぎですけれど、あまりに多くの影響下にある作品で間違いないです。
また、ジョッシュ・トランク監督作品「クロニクル」とも近い作品です。
おおよそ、私たち日本人で漫画を読む人であれば、想定内の世界なのですが、実際に、リアルに、実写映画にされた事が無かったので、ある意味既視感さえありましたが、良かったです。
それに漫画的表現方法と、やはり実写的映画表現方法は違うわけで、そう言う意味でも良かった。
出来れば、壁の描写のアレがあれば・・・とは思いました・・・ここまでやるなら、アレは観たかった。
それと、ベンは絶対に許せないし、猫原理主義者には大変にキツい場面がありますのでご注意を・・・というか、マジでベンには同じ目に会ってからにして欲しかった。いや、同じ目に何度も合わせないと辻褄が合わない。ベンを許す事は出来ないし、するつもりもない。許せん。
あの表現を、鍋の蓋で表現するの、凄く良かったです。
結局、男子が・・・
正直、もう少しコンパクトに出来たんでは無いか?と思ってしまいました。必要な部分をもっとソリッドに繋げても面白かったんじゃないでしょうか?でも基本的には大満足です。
イーダ役のおでこの広さに、私は少しイジワル(とは言え結構な事靴にやってますよね?)を感じましたし、無垢だからこそエスカレートや自分の感情をコントロールしない恐ろしさはあると思う、イーダにも。
逆にアナには好感を持ちましたし、いろいろ時間がかかるんですけれど、そこがイイ。声の出し方とか繰り返す動作とか、本当に上手いと思いました。
もっと大人びて感じたのが、アイシャで、彼女が最も精神的に大人に見えた。この子がギャップがあり非常に演技、それも目の演技含めて良かったし、最も上手い。
漫画「童夢」と映画「クロニクル」が好きな方に、オススメ致します。
シャイ・ガル監督 Netflix
超巨大な望遠鏡、あのハッブル望遠鏡を超える精度を持ったジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が出来上がって宇宙にあがり、そして活動するまでの困難を描いたドキュメンタリー映画です。
私の知識はハッブル望遠鏡で止まってました・・・それすら1990年の話しです。科学進歩してる!人類凄い!頑張ってる!と思えるテクノロジープロジェクトの話し、大変アツいです!
単一障害点、つまり、1コでも上手くいかないポイントがあると、すべての事業が失敗する、という大きな問題に繋がるポイント、というのがNASAのプロジェクトの中で最も多い数字です。
火星探査機を送るプロジェクトで90くらいの単一障害点があります。
このジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の単一障害点は344です・・・
100億ドルと20年の歳月をかけた巨大プロジェクトです。
もちろん様々な人の人生がかかった結末は、既に現実でご存知の方も多いかと思いますが、本当に凄い解析度の映像で、興奮します。
しかし、、それでも、宇宙の神秘はまだ解析できない事がたくさんありますね・・・
宮崎駿監督 スタジオジブリ 東宝 ユナイテッドシネマとしまえん
公開から4日目でしたが、休日だったので、都内の映画館は朝から夕方まで、この作品の空席がほぼ見つかりませんでした・・・が、このユナイテッドシネマとしまえんだけは別で、助かりました。早起きして観に行って良かったです。
とにかく何も情報が無いのですが、それが今回、恐らく遺作になる可能性が高い、しかも日本のアニメーション映画の、誰もが知っている監督、宮崎駿監督の作品であるからこそ、この形が出来たんだと思います。きっとどんな監督でも、本当は事前情報を出来るだけ少なくしたいはずです、それで人が来てくれるのであれば、ですけれど。
で、ポスターとタイトルしか分かりません。しかもかなり古い小説のタイトルで、そのまま映画化するとは思えないですし、私も最近は予告編も観ないようにしていますし、完全にまっさらな状態で観に行きました。
観終わって、凄く複雑な感覚があります。単純に良い、とか悪い、とか言えないな、という感覚です。でも、これが遺作になってしまうとすれば、個人的には残念、と思ってしまいます。前作の「風立ちぬ」が凄く良かったからこそ、です。
それでも、日本のアニメーション映画監督、ある一定数の方々は子供のころから馴染んだ世界を作ってきた方の引退作品(えっと何回目でしたっけ?)ですし、あの宮崎駿監督の作品ですから、是非劇場に観に行ってほしです。出来るだけ何も情報を入れないで。
1970年生まれですので、どうしても、世界名作劇場を観て育ちましたし、そう言う意味では、高畑勲の演出と宮崎駿の絵にずっと影響を受けてきたわけです。その総決算作品と、言えなくもないし、でも、ちょっと、な感じでした。
宮崎駿作品を観た事がある人に、オススメ致します。
アテンション・プリーズ!
ココからネタバレありの感想です、未見の方はご遠慮ください
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ストーリィは複雑では無いですし、ほぼほぼ筋としては理解出来ます。出来ますけれど、結構ワカラナイ部分がありますし、なんで?という部分も大きいです。
まず、昭和、しかも先の大戦末期と思われる日本が舞台です。空襲によって母親が病院で亡くなってしまいます。そこでマヒト(主人公の名前)は父と疎開。疎開先が不明ではありますけれど、普通に田舎です。しかも、そこでは初めて会う母の妹であるナツコ(と言われると、どうしてもドカベンの岩鬼の言う『なつこは~ん』が出てきてしまいます・・・DAINASHI)と父は再婚する事になっていて、既に妊娠中です・・・これだけで相当困惑ですけれど、まぁ昔の日本でも世界でも、行われていた順縁婚という奴だと思われます。なくはないけれど、かなり強引ですし困惑して拒絶するマヒト。疎開先の家もかなりの広さですけれど、裕福でしょうけれど、旧家にはたくさんの老人が仕えているのですが、その人々にも、ナツコにも心を開かないです。
旧家の庭はかなり広く、そこにアオサギが住んでいるのですが、ポスターで描かれている重要人物です。ですけれど、こいつが何なのか?説明もなく、かなり謎です。ですが、謎はめちゃくちゃいっぱいあって、本当に飲み込みにくいです・・・
強引にあらすじだけを追うと単純で、宇宙から飛来した隕石のデカいヤツに心奪われた博識の大叔父が突然消えてしまい、その中に取り込まれてしまったと思われるナツコをマヒトが救いに行く話しです、行って帰ってくる物語とも言えます。
困惑し拒絶していたマヒトが状況を受け入れ、そして成長するのきっかけであり、完成しちゃうのが「君たちはどう生きるのか」という本で、この描写がめちゃくちゃに短いので気がつきにくいし、後から考えると、このシーンしか成長というか転機が無いんですよね、しかも読書体験で変化しているので、描写もそれほど劇的でもないですし、なんなら割合序盤にあるんです・・・で、ここからもう完全に良い子になってる。この変化を起こすところカタルシスが生まれるのが成長譚という事ですけれど、それが無いんですね。
で、不思議な隕石の周囲を館で覆いかぶせた、この中のファンタジー世界の理屈も良く分からないですし、もうこの世界が、今までの作品のセルフオマージュに満ち満ちています。
恐らく、最初のイメージ、館の中に入った後、海に浮かぶ小島に分け入るのですが、これは間違いなく、ベックリンの「死の島」だと思われます。その近くには様々な帆船が列をなしているのですが、これもセルフオマージュで、「紅の豚」の死んだ戦闘機ノリが空高く上がっていくのと同じですし、とにかく、かなり過去作のオマージュに観れる絵です。
やたらと血脈にこだわって見たり、何かあるとすぐに抱きしめて終わらせる感じだとか、とにかく宮崎駿っぽさ、というか本人なんですから当然でしょうけれど、今までのイメージを踏襲するので、絵として新しかった、動きとしてスゴイ、というのは冒頭の5分くらいの火事のシーンだけ、です。それ以外はかなり見た事ある感じしかない、と言って良いと思います。しかも、全盛期と比べると、明らかにクオリティとして下がってきてしまっています・・・
話しの筋として、1度で上手くいかせるわけにはいかないのも分かるんですけれど、上手くいかなかった事に対しての対処法があるわけじゃないのに割合短時間で再挑戦になるので、無策に見えてしまったり、謎解きのカタルシスもあんまりなくて、とは言え映画ですから3時間を超えるのはちょっと無理でしょうし、最後の方はかなりドタバタになってしまっています。
マヒトは多分、宮崎駿さんの分身でしょう、子供の頃に父親が働いていた軍事産業に愛蔵入り混じった感覚があった事を父の工場で示されていますし。炎を使う少女は、宮崎駿監督の好む無垢なる少女像から1歩も外に出ませんし。ある意味とても古い女性像からは離れられなかったんだろう、というのも理解出来ます。
アオサギについて、私は全く謎の存在だと思うのですが、SNSで観た音楽ライターの小室敬幸さんの「今作の下敷きになっているのはモーツアルトの『魔笛』なのでは?」でやっと理解出来た気がしました、たしかに不安定なパパゲーノですね。魔笛だと思うと納得できる気がしました。
全てのアーティストが晩年に向かってクオリティが高まるわけじゃないですし、仕方ないけれど、前作「風立ちぬ」が良かったから、少し個人的には残念。でも、作ってくれてありがとう、というくらいの気持ちにはなりました。当たり前ですけれど、宮崎駿作品としては、結構繰り返しな感じだと思います、何でも抱きしめて解決は、いいよなぁ、うらやましい。