井の頭歯科

「哀れなるもの」を観ました

2024年2月9日 (金) 09:13

 

ヨルゴス・ランティモス監督    サーチライトピクチャーズ   吉祥寺オデヲン

 

2024年公開映画/2024年に観た映画  目標 36/100です。 現在は1/10

 

原題は「Poor Things」で原作もあってアラスター・グレイというスコットランドの作家の1992年発表の小説です。これは原作を読んでみないと何とも言えないし、監督が何をもって映画化映像化したくなったのか?は原作を読んでみて考えてみたいです。

架空の、もしくはパラレルワールドのようなロンドン。河に架かる橋の上に居る青い服の女性が身投げして・・・というのが冒頭です。

まず、2024年に観たい作品の2本のうちの1本で、それはヨルゴス・ランティモス監督だから、です。何と言っても2009年の「籠の中の乙女」の衝撃、そしてその後知る事になったキャストの悲劇を聞いて、本当に頭がオカシイ(←褒めています)監督だと思っていたのですが、その後2015年の「ロブスター」もかなり変わったSFでしたしなによりもコリン・ファレルの困り顔がこんなに!という作品(その後コリン・ファレルの困り顔映画としてはさらに上を行く「イニシェリン島の精霊」という作品もありますし)で、2017年の「聖なる鹿殺し」では怪演バリー・キョウガンを見出したヘンテコリンな映画で、ここまでは監督自身が脚本を書いていたのです。

それが2018年の「女王陛下のお気に入り」から監督に専念するようになりまして、ちょっと毒が抜けた、エッジが割合少なくなった印象があり、その代りに、知名度が格段に良くなって一般の人気も高まった気がします。なので、監督としては、次作はかなり好き放題出来るタイミングだと思うのです。

製作者やプロデューサーの意見を聞いて作った作品よりも、監督の好きに作った作品の方が面白いと思える事が多いですし、ある程度の大作、製作資金が莫大な作品ほど、難しくなるわけですが、1度ヒット作を出した後ならば、監督の好きに作れる機会が得られたと思ったからです。

で、今作は原作がありますし、しかもはっきりと、女性という事柄を扱った作品で、ヨルゴス・ランティモス監督なら、もっとエッジの効いたことをしそうな感じでしたが、どちらかと言えば、とてもライトな人にも楽しめる作品に仕上がったと思います。

個人的にはちょっと残念でしたけれど、観ている間は大変新鮮で、ちょっと世界観の作り込みではジャン=ピエール・ジュネ監督を思い出しましたし、テーマで言えばグレタ・ガーウィグ監督の「バービー」ですが、もっとセクシャルで哲学的でもあると思います。

結局のところ、本当にもっと困った事態にもなり得たし、好奇心というエンジンにはブレーキが存在しないし、取り返しのつかないダメージは負わないご都合主義とも言える部分もある。

けれど、ここまでの世界観の作り込み、美術、スタイル、衣装、は素晴らしかったです。

個人的には音楽は、もう少し面白くポップでも良かった気がします。ちょっと薄いと感じたし物足りなさも感じました。

そして結局のところ、エマ・ストーンの、エマ・ストーンのよる、エマ・ストーンの為の、ベラ・バクスターな作品。

あ、ウィレム・デフォーとマーク・ラファロは、凄く良かったです。

それとハリーは大変重要なキャラクターで、私はハリーとゴドウィン・バクスターの中間に居たい。

エマ・ストーンが好きな方に、オススメ致します。

だって、もし、エマ・ストーンじゃなかったら?成立しにくい説得力。女性の話し、とも言えるけれど、そこまで大きな話ではない気がする。

 

 

アテンション・プリーズ!

 

ここからはネタバレありの感想になります。

 

未見の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレあり、としては、まず、エマ・ストーンは確かに凄いのだけれど、そんなに難しい役柄ではない気がしました。かなり裸なんですけれど、まぁそこは凄い。誰だって裸を見られたくはないし、まして映画になって映画館で結構世界中の人に見られるのは、どう考えても恥ずかしい。
確かに、すべての女性は、男性と比べて、残念ながら窮屈なしきたりが多いし、そういう身体性があるのだと思うし、それでも、出来るだけ公平に扱われてしかるべきだし、当たり前だと思うのですが、文化とかモラルとか道徳とか羞恥心だとか、いろいろな積み重ねがあって、歴史があって今があるし、だから今の価値観や刷り込みに公平さが必要なのは間違いないし、変化させるべきだとも思う。その事には同意するけれど、なかなか難しい、という事も良く分かるし、男性は成熟しないでも大人になれるので、そういう社会で育ち、刷り込まれた事に無自覚なので、まずは自覚させないと成長はありえないから、この手の映画で、娯楽的に自覚させる機会の一つであるのは素晴らしい事だと思う。
それでも、違和感と共に、もう少し練れなかったかな、と思うのは、結局は、結婚という制度には無自覚に肯定的に描かれる事です。
確かに、ベラから見ればフラットに関われるとも思いますけれど、セクシュアルな事には排泄や尾籠な感覚って皮膚的なモノでもあるし、ここはベラがおおらかな為だと思いますが、秘める事も文化の一つの事象だとも言える気がしました。
それに決定的な傷を負わないのも、やはり気になるところで、好奇心というものは結局のところ都合が悪くなる事にも繋がりかねない、危険な面もあると思いますが、まぁそれは脚本上仕方ないかも。
マーク・ラファロ演じるダンカン・ウェダバーンの女々しさ(という表記が既に刷り込みなんだけれどこの漢字を当てているのもどうかと思うのだが、それでも新語を作り流通させる事を考えると文化の名残とも言える)はだいたいにおいて男性に現れると思いますが、とても上手いキャラクターだと思います。
それと、ハリーの存在はなかなか良かった。皮肉屋だという事は確かに、ナイーブである事でもある。そして同時にゴドウィン・バクスターの医師や科学者としての、感情に流されない覚悟も見逃せないし、親近感がある。男性か女性か?という事ではなく、自分の船を操縦するのが自分であるなら、科学的で感情に流されないようにする事は必然な気がします。でもある種の優しさも必要。
アレクサンドリアではあれだけショックを受け、まさに感情に流されたのに、パリやロンドンでも、同じような立場の人は見えないけれど居たはずで、その辺もオミットされているのもどうかと感じるんだけれど、これだけ魅力的な世界観を作り出されると、確かに鑑賞中は気づかないで楽しめました。
エマ・ストーンが美人か?プロポーションが良いか?とかいろいろ意見はあるだろうけれど、整ったハリウッド女優である事は事実で、だからこそ美しいとされているし、これがもし、エマ・ストーンほどの容姿でなかったら?と思うと、案外なり立ちにくいので、すべての女性の話しにはならないんじゃないかな、持てる者の、話し。
それでも、この映画が出来て(インティマシー・コーディネーターも居たみたい、良かった)良かったし、観ている間現世を忘れる事が出来て良かった。
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