井の頭歯科

「Mommy マミー」を観ました

2024年8月30日 (金) 09:18

二村真弘監督     TOFOOFILMS     シアターイメージフォーラム
2024年公開映画/2024年に観た映画  目標 36/100です。 現在は25/82
ちょっとドキュメンタリーの良質な作品が観たくなり、話題にも上っていたので。ただし、それなりに地雷臭もしたのですが、今行けるの劇場の中ではこれかな、と思って。
観終わった後、席を立ってから劇場を出るまでに聞こえた、前の前に座っていた若い女性2名の会話
「私、林さんはやってないと思うわ」
「なんで?私もそうかもとは思うけど」
「だって、動機がないじゃない?」
「確かにそうだけど」
「でも私だったら、カレーに入れちゃうことあるかも」
(私:ええええええええええ!)
「なんで?」
「だって子供だったら、どうなるか分からなくても、やってしまう事あるでしょ、私だったら入れちゃうかも」
(私:ええええええええええ!!!!)
「ふう~ん」
という怖い会話を聞きました、そして、この映画を観て、単純に、観たモノの意見をそのまま取り入れちゃう人の実際を見てしまった気がします。それって、当時の放送やテレビ報道が過熱して繰り返した事を批判する映画を観た人として、すんごく違和感しかない反応で、この映画がなんも響いてない証拠、ある種の形や証明になってやしないか?と感じてしまったからです・・・ちなみに他の人は無言でしたので、劇場内みんなが聴こえていました・・・
それと、客層が、まぁとても雑多で普段映画を好んで観に来ている人の割合、が低いので観客のマナーの悪さも、結構な状態でして。私の斜め前のおじさんは完全に飽きてて、スマートフォンを取り出しては何度も時間を見ているようでしたし、なんだかなぁと言う感じです・・・そうテレビの前のお茶の間感覚でした。これが世間という奴か!
本当の所は分からないけれど、お茶の間に存在する、下世話な野次馬(もちろん私もその1人)が観に来ている映画、のような鑑賞体験になってしまいましたし、実際、この監督はまだ若手ですし、それほど上手くは無いとも思いました・・・そう言う意味で残念・・・
あくまで個人的な興味について、シリアルキラーになった、ならざるを得なかった、という人物の動機が気になります、環境含めて。どうしてこのような人物が生まれてしまったのか?について。だから「屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ」のような映画を観に行くわけです。
なので、今作もその点に興味があるわけです。
ですが、残念ながら作りがもうふたつくらい足りないですし、もっと短く出来たとも思います。まだテーマが絞り込めてもいないし、ブレを感じます。でも若さのなせる技、の良い部分もあったし、残念ながら悪い部分も見受けられました。
衝撃作かな?私は全然衝撃無かった・・・
ドキュメンタリー映画って基本的に素材で監督が言いたい事をまとめる作品だと思いますし、ドキュメンタリーだから全部本当、というのはリテラシーが足りないのでは?と思います。それなりの新事実があれば、そこを軸に語れるのですけれど・・・私にとっての新事実は無かったです。無かったは言い過ぎかな・・・知らなかった事はいっぱいあったけれど、事件の根幹に関わる新事実は無かった、と言う意味です。
それでも、ドキュメンタリー映画が好きな方にオススメ致します。
アテンション・プリーズ!
ここからは映画のネタバレがあります。
なので、鑑賞された方に読んでいただきたいです。
まず、監督の動機として、知らない事件について、ちゃんと調べようと思って取材をするのは素晴らしい事ですし、データの出した人、その人とは別の科学的検証の批判者を両方の言い分を聞くのも姿勢として良いと思います。
また、その人物に迫るために、故郷の話しを入れるのも良いでしょう、でも、残念ながら整理出来てないし、何かしらの関連、人物の育成環境に迫るまで至っていない。正直あまり関連を感じませんでした。
また、ナレーションでの手紙のモノローグが入るのですけれど、これが、何時、誰に宛てた手紙なのか?全然分からないし字幕の補正もなく、もう一つ努力して欲しいところです。
で、科学的な検査について、確かに、資料を提出した先生は、その先生が任された中での仕事で、もちろん主観だけれど、そして凄く大雑把ではありますけれど、当時はそれでよかったんじゃないかな?とは思います。ただ、新しい分析方法があれば、当然やるべきだし、偉いなと思ったのは、それでも取材に応じてカメラの前に出てくるこの先生の態度は尊敬に値すると思います。それにこの先生だって新しい検査方法があればやった方が良い、という趣旨の発言しているし・・・
問題は新しい方法があって、保存されている資料で調べればよいのに、結局調べていない、という事です。これも検査結果を実際に提示出来ていないんですね・・・もちろん違う可能性あるけれど、この事件の資料を使って調べられていないわけです・・・そりゃ説得力は落ちますよ・・・
次に目撃情報ですけれど、1階からなのか、2階からなのか?全然意見としての信憑性が低い。これはずっと言われてる事ですよね。
で、最後に動機です。ここに最も興味があるのだけれど、分からない。何も新しい証言も無ければ憶測すらないです。
で、私も冤罪だろうとは思います。思いますが、冤罪事件で判決が出ていて、それを覆すのは凄く難しいという事実は、これまでの歴史が物語っていますし、そもそも、新しい科学的知見や捜査方法が見いだされた時に、それを適応する仕組みが無いのが問題。だとすると冤罪事件ってもう簡単に覆す事が出来ないし、そもそも法治国家の体を成していない事が問題。
でもそこまで切り込むわけでもなく、当時の判決を出した裁判官にインタビューするも特に何も答えが得られるわけでもなく、当たり前ですけれど、裁判官が自分の判決に対して、簡単に反対や疑義を発言するわけないし、そもそもただの当事者で、これも仕組み、システムを変えないとイケナイ話しに見えます、というかずっとそうです。
であれば、このシステムが問題です、という指摘をして人口に膾炙する認知を高める作品にすればいいのに、それはしないんですよね・・・ココにブレを感じます、まだテーマが絞り切れていないように感じるんです。
動機も不明、真犯人のめぼしも無く、新事実と言えば、特に無いし、地方の保険金詐欺について、集団での詐欺事件の側面は理解出来ましたし、知れて良かったけれど、それはこの事件の本質と、関わってはいるけれど、それを基に過剰な報道をして過去と、同じ構造になっていると思うと、なんだかなぁと言う気持ちになります・・・
林宅に居候していた人物、これもどこまで何が怪しいのか?凄く分かりません。当時を知る人物で、確かに不審ではありますけれど、だからと言って何か出てくるわけでもなく、さらに、監督自ら法を犯してGPSを取り付け、しかも逮捕、示談で不起訴処分です・・・
GPSを取り付けたのは誰なのか?その人物と示談中の会話で何か新事実があったのか?という新しい強引な手法を試していたのではないと思われるので、ここでこの映画の信憑性まで下がってしまいました・・・という事はこの映画に出てくる人物で、カメラに収められている人物は、もしかすると監督にとって都合が良いように描かれ、切り貼りされて映されている可能性が高くなると思います・・・それでも、映画の中に、自分の逮捕のシーンを入れているので、まだ、少しは信頼性が残っている、という事です。そう言う意味でもまだ稚拙なんだと思います。
あ、偉そうに書いていますけれど、もちろんこれは何も作品を作った事が無い、なんなら能無しの白痴な私の勝手な感想で、他のドキュメンタリー作品と比べて、稚拙なのではないか?私はそう感じた、と言っているだけです。単純に作品を作って映画館でかかっている人に言える言葉なんて何もないです。ゴミがわめいているだけです。
そういう事件としての、動機、真犯人、そういうのは全部全然何も解決していないどころか見る前と見た後でも何も変わらないです。
1点だけ、その後の家族の様子の中で、この映画は林家の長男の視点で進むのですが、お姉さんの話しの部分だけは、映像もそこにモノローグを当てるのも上手いと思いました。
それ以外の、海とか空とか雲とかの映像部分はもっと削れるし、短くも出来たと思います。
で、林死刑囚の夫の独白なんですけれど、私は、全然信憑性を感じませんでしたし、この人は次の瞬間に「あれは嘘やで映画だからオモロくしようとしただけや」と言い出しそうなんです・・・だって詐欺事件の主犯ですよ・・・味を占めて何度もやって、周囲の人物も巻き込んで、凄くいかがわしい人物に感じました・・・なのでこの人物の発言は全然信用できないし、この人の立場で、こうしてカメラの前に出てくるの、凄い神経の持ち主だな、とも思います。
良かった点を挙げておくと、フレデリック・ワイズマン特集をシアターイメージ・フォーラムでやるの知れた事。名作チチカット・フォーリーズを見れるチャンスがある。二村監督も、是非一緒にフレデリック・ワイズマン見ましょうよ~きっと衝撃あると思いますよ。

「さらば冬のかもめ」を観ました

2024年8月27日 (火) 09:16

 

ハル・アシュビー監督     コロンビアピクチャーズ     U-NEXT
2024年公開映画/2024年に観た映画  目標 36/100です。 現在は24/81
ホールドオーバーずがあまりに面白かったので、アレキサンダー・ペイン監督の構想元の1つと言われ、出演者に見せた作品の一つに挙げられていたので、観ました。ハル・アシュビー監督、私はテレビで観た「チャンス」しか観た事が無いです。
日本公開は1976年、アメリカでは1973年公開作品、なるほど、ホールドオーバーズに近いですね。
マーチが流れる中。ノーフォーク海軍基地に勤めている変わり者バダスキー(ジャック・ニコルソン)と几帳面なアフリカンアメリカンのマルホール(オースティン・ヤング)は先任衛兵伍長に呼び出され・・・というのが冒頭です。
なるほど!確かにこれは1970年代当時の事を知れる佳作だと思います。人によっては忘れられない作品になると思います。
ノーフォークからポーツマスまでのロードムービーとも言える作品。
バダスキーとマルホールという海軍の猛者の2人が護衛するのが18歳のメドウズ(ランディ・クエイド)で、このメドウズの成長と3人の奇妙な友情とも呼べば呼べるのですが、関係性を描いた作品。
たった50年前の作品とは思えない、今から見ると非常に牧歌的、良くも悪くもゆるい時代。しかし、だからこそ、ある種の温かみを感じさせてくれます。
この僅か半世紀前の常識が、今では考えられないくらい軽視されていると思うと、とても残念であると共に、街のいたるところにゴミがあり、喫煙が電車内で許されていた時代、隔世の感があります。
バダスキーやマルホールは今でいうと、荒くれ者で割合暴力で訴えるタイプの人間ですが、他者と関係を結ぶこと、良かれ、と思う事が普通の感覚に見えます。もう少し言うと、おせっかいに見えるという事です。
でも他人のお節介で世間は出来ているとも言えますし、私はこの手の世話されるのが苦手なのに、彼らの親切心Kindness、そして優しさTendernessには共感できるし、今最も必要な事なのでは無いか?と思うのです。
原題は「THE LAST DETAIL」なんか個人的にはしっくりこないし、かもめはセーラーという水夫の暗喩なんでしょうけれど、う~ん・・・コメディではあるけれど、それなりの「The Catcher in the Rye」感がある作品なんですよね。
その言葉通り、原作があるみたいで、そのラストの描写は知りたい。しかし、映画のラストを私はメドウズにとって必要な、人間の大人になる、という事なんだと理解しました。苦味もあるけれど、それこそ、ハナム先生のお酒の件じゃないけれど、コピーの下り、良かったなぁ。
もう少しいろいろハル・アシュビー監督作品観て観たくなりました。そう言う意味で、アレキサンダー・ペイン監督「ホールドオーバーズ」に感謝。
しかしメドウズ役の人、凄くいい味。この人がいたからこそこの作品の良さがある。もちろんジャック・ニコルソンも素晴らしいんだけれど。でも最近はジャック・ニコルソンを観ていると、どうしても自分に怒ってる、つまりタランティーノ作品に出ているレオナルド・ディカプリオを思い出してしまいますね・・・似てる!!
ホールドオーバーズが面白かった人にオススメします。
アテンション・プリーズ!
ここからはネタバレありの感想なので、未見の方はご遠慮いただき、是非「ホールドオーバーズ」と「さらば冬のかもめ」を観てから読んでください。
結局、逃げる、という手段もあったと思います。何妙法蓮華経の人、いわゆるナムナム系の人たちの言うように。ただ、それではバダスキーとマルホールに迷惑がかかる。そして、最初はメドウズは全くすべてに受動的で、ある種投げやりだったと思います。
それがバダスキーのおかげで、人間として大人になったわけです。いろいろな意味で。
この成長部分は面白おかしく、そしてアイロニーに満ちて見えますし、リリシズムさえ感じます。だからこそ、投げやりだった時間への感覚が変わり、自己主張できるようになったわけです。だからこそ、刑務所に、些細な理由であったとしても、入ることの意義があるのだと思います。そういう社会でそういう世界に生きているからこそ、大人として行動しなければならないし、おそらく手癖も真剣に向き合う事が出来て、変われるとも思うのです。
しかし、宗教ってのは凄いな・・・いろいろな意味で・・・アメリカの人に、何妙法蓮華経って言わせてるの、いろいろな意味で、衝撃的です。

「ホールドオーバーズ 置いてきぼりのホリディ」を観ました

2024年8月23日 (金) 09:18

 

アレクサンダー・ペイン監督     ビターズエンド     キノシネマ新宿
2024年公開映画/2024年に観た映画  目標 36/100です。 現在は24/80
アレクサンダー・ペイン監督作品で、しかもポール・ジアマッティが出演で主演!と聞けば、名作「サイドウェイ」を思い浮かべずにはいられません。かなり好きなタイプの映画です。とは言え、全てのフィルモグラフィーを観ている訳では無いですし、「ファミリー・ツリー」は私にはもう一つハマらない作品でした。家族の善性、理解はできるけれど、私には家族とは業の方がずっと肌身に感じられます。遺伝子的に逃れられない、というのはある種の鎖ですし。それが地域性にまで広がる話しで、あまり感じ入る事が出来ませんでしたし、「ダウンサイズ」の主人公があまり気に入りませんし、けれどその主人公の身から出た錆的な展開は胸がすくモノがありましたが、それはまた別の話し、映画の評価とは関係ないですし。
なのであまり身構えず、期待も大きく持たなかったのが良かったのかも。それと映画の感想なんて、誤解を含めて、その人のモノで、それだけで良いとも感じています。話し合う事になれば、また変わりますけれど。また、出来るだけ他者の感想に引っ張られたくないので、当たり前ですが、基本感想にまとめてから他人の感想を見聞きしたいです。なので本作の感想もまだ、見てもいないです。ですので、間違っていても、監督の意図と違っていても、それはそういうものだと思うのです。受け手の自由がある。
1970年の12月、クリスマスシーズンに差し掛かった伝統ある全寮制のバートン高校では荷造りをして終業式を待つ生徒でごった返しています。古代史の授業を担当するポール・ハナム(ポール・ジアマッティ)は生徒の評価表を返し・・・というのが冒頭です。
これはかなり変わった、そして凄く志の高い作品。と私は感じました。
映画冒頭にはおおよそどんな映画でも製作会社、配給の名前が連なり、その会社独特の数秒から数十秒の動画が流れます。20世紀フォックスならファンファーレとロゴ、MGMだったらライオンの雄たけびとロゴ、コロンビアならたいまつを掲げる女性とロゴ、など映画を観ているといろいろ出てきて面白いですよね。
今作は、ミラマックス(となるとどうしてもハーヴィ―・ワインスタインを思い出してしまう・・・ちょっと身構えてしまいましたよ・・・)とユニバーサルなど数社の動画(この名前何というのでしょうね・・・知識が無い)が流れます。が、そのどれもが古めかしくも懐かしみがあります。もちろん1970年はまだ私は0歳なので、当時に観ている訳では無いのですが、少しは当時の映画をDVDやVHSビデオで観てはいるので、何となくわかりますし、そうでない方にも、わざわざレコードで音楽をかけているので、レコードの針の無音では無い音で分かるはずです。
1970年代の映画を、現代(2024年)の人に、新作として観て貰いたい、というのが志が高い、という事なんですけれど、詳しく説明しようとすると、どうしてもネタバレに繋がりかねないので、割愛、ネタバレありの部分で説明します。伝わりにくいのをあえて言うと、それは普遍的な価値について、です。だから志が高い。
この映画はポッドキャスト番組「コテンラジオ」を聞いている人には頷くしかない、様々な要素があり、非常にマッチング度が高い関連作品だと思います。特にポエニ戦争、ローマ史、つまりユリウス・カエサル編と、ハンニバル・バルカ編は必聴の回だと思います。だから聞いていた人にはご褒美な作品。
個人的な難点を1つだけ挙げると(細かいのはいくつかある)それは、もう1人の主役であるアンガス・タリ―を演じたドミニク・セッサの造形、です。もちろん設定として分かるんだけれど、ちょっと大人要素が強すぎる。もっと子供っぽさを残した人の方が、私はより刺さる作品になったと思います。それ以外は本当に素晴らしい作品。
音楽もとても良かった。音楽に詳しくないので、歌詞も意味が分からないけれど、ピアノの場面の選曲、良かった。そしてパイプオルガンの荘厳さも良かった。
子供時代を経験した人に、オススメします。
当たり前ですけれど、ポール・ジアマッティ出演作で今の所私の№1作品。そして私のクリスマス(個人的には異教徒の祭り、と捉えています)映画として№2の作品です。
宗教という事についても考えさせられる作品と同時に、2023年の個人的ベスト2であるポール・シュレイダー監督作品「カードカウンター」との類似点もある作品です、ええ、あれから私も手に入れて読んでますし、100分で名著の紹介本はすぐに読み終わりましたし、良かったです。
良作の1070年代の映画を観たくなる、そうさせる映画体験。やっぱり志が高い。
アテンション・プリーズ!
ここからはネタバレありの感想ですので、本作を未見の方はご遠慮くださいませ。
長くなりそうなネタバレありの感想
まず最初に志が高い事について説明したいです。
1970年代の映画なのに、今2024年に劇場でかかって見れる、というのがどれほど難しい事か?を考えてしまったからです。
この映画の中で、主人公であるポール・ジアマッティ・ハナム先生は古代史の先生で、今を知りたければ、過去を知る事こそ必須、というポリシーの持ち主です。ボストンの古代展示室での教えには頷くしかない。そのハナム先生は1970年に教師をしている、という映画を観る事で、今2024年現在の私の所作、生き方みたいなモノまでも照射してくる言葉を投げかけてくるわけです。それって、普遍的な価値について語っているのと同じです。古代から同じような悩みを抱えて生きてきた人類に対しての普遍的な態度の話し。善き事についての話しだと感じるからです。
そして、今普通の人に、1970年代の映画を観て欲しい、と思い願ったところで、そもそも映画どころか文化的な摂取をしないで生きている人もいますし、なんなら偏屈で友人の少ない私の肌感覚からすると、何かしらの文化的な趣味趣向を生きがいや軸に生きている人に方が圧倒的マイノリティ。肌感覚でも、多く見積もっても3割くらいじゃないでしょうか・・・
そんな2024年の現代にクリスマス映画の再興を掲げて、善き事、普遍的な価値観を描く、志が高いです。まるでフランク・キャプラの「素晴らしき哉、人生」のファンタジー要素を抜いて、で同じくらい志が高い作品。
今のアメリカ大統領候補者の下品さ、会話のかみ合わなさ、うちの国の政治家の方々のわきの甘さや納税義務を怠っても逮捕どころか起訴さえされない状況、経済的な点のみで判断される価値観の薄っぺらさを、たった50数年前の出来事を描いているだけなのに、思い出させるのです。そうだった1970年代は当時でさえ古臭く見えていた宗教的な儀式や規範と言うモノがまだ存在していて、ある程度信じていられた事を。それこそもっと前の世代から観たら違うのでしょうけれど、ソクラテスの時代から言われている、今の若い人たちは・・・という嘆きはあるものの、今と比べて世界はまだ単純であったし、善き事がまだ規範足り得た時。それを映画を通して理解出来る。決して説教臭い話ではない事は観れば理解して頂けると思います。
確かに、この映画で取り残される3人は三者三様で、それぞれに世代が違い、価値観も違うのだけれど、そうとしか出来なかった人たちです。その中でも、特にポール・ジアマッティ・ハナム先生の境遇、背負わされているモノがあまりに重すぎます。メアリー・ラムの背負わされているモノも非常に重くヘヴィーなんですけれど。
生徒たちから嫌われ、教師の仲間の中でも浮いていて、自分の教え子が校長になっているが、自らの世界を築き上げているように見えるハナム先生。周囲からは浮いているし、時代錯誤で、偏屈にしか見えないのですが、そうとしか出来なかった人である事が徐々に分かってきます。
ハナム先生は、斜視という身体的な特徴に加え、多汗症、そして臭いについても身体的特性を持っています。まるでヨブ記の主人公のようです・・・それに加えて、ハーヴァード大学での卒論で盗作疑惑をかけられ、放校処分を受けているようです。映画冒頭の校長との会話でもそうですが、寄付金額が大きいからと言って、勉学の評価は別、というハナム先生の融通の無さは、ここからも納得できると思うのです。そうするしかない事を。そんなハナム先生は前校長の温情で教師になった人。当たり前ですけれど、自分の殻に閉じこもるだけではなく、他人をうらやんだり、妬んだりしてもおかしくない境遇と言えます。それでも、確かに当たりはきついし頑固で偏屈でなあるけれども、根本の部分で優しい、親切心のある、tendernessの持ち主なんです。ここにアレキサンダー・ペイン監督作品の主人公に共通するものがあると思います。
それを現代でやろうとすると、かなり難しく、それこそ前作の「ダウンサイズ」みたいにシニカルさが強くなってしまいます。でも、それが1970年代だったら、ぎりぎり生活者の視点の中にも存在していると感じられるのです、夢物語ではない現実的なリアリティがあります。
さらにここで宗教色を強く(は)出さない匙加減も非常に好ましいと感じました。だからこその、カードカウンターと同じマルクス・アウレリウス自省録が出てくるわけです。しかし、それでも、まだ宗教はその役割を終えているとは思えない事も理解出来ます。宗教によって救われる人が居るのであれば、それもまた善き事のひとつかも知れません。でも人間が不条理を納得させるために作った神という上位概念を使わなくとも、善き事を分別出来る人間の方が、ホモサピエンスとしてより良いのではないか?とは思うのです。
非常に腐った世の中で、現実はいつも不条理で、不正義がまかり通り、思うようにはならない。しかし、その事を嘆いても変わらないし、その中で苦しく孤独だとしても、自分にとって善き事を繰り返していく事を選べる3人の、家族でもない、連帯は一瞬で、それでも確かに何かが伝わり、それぞれの道を歩む人たちの一瞬の邂逅を描いた傑作。
家族でも連帯しているわけでもないが、確かに繋がった、と言える何かが残る。ラスト近くの握手しているだけの2人の、校長室のまえで手を繋ぐ2人の、何と美しき事か。
なかなか昔の作品が良作だとしても、すぐに観られるサブスクリプションサービスをいくつも抱えていても、なかなか過去作や名作を観られていない私に、過去作の偉大さを、そしてなんでも、常識だって変わってしまう現代のたった50年前の世界を思い出させてくれて、そんな世界や映画がたくさんある事を教えてくれた本作の価値は高いと感じます。
志が高い。稀有な作品。
ポール・ジアマッティ・ハナム先生の、教育者としての態度、殻に閉じこもる意味には深く納得です。殻に閉じこもり、しかし生徒に対しては毅然と教師として振る舞い、それ以外は自分の為に時間を使う、それでいいじゃないか?と思うし、そうせざるを得なかったと思う。同僚の女性とのコミュニケーション、そして何かしらの淡い予感を、きっと何度も経験したのだろうことは容易に想像できますし。そして淡かろうがなんだろうが、ショックだし、彼女は親切でtendernessなだけでそれだって立派な人。もしかするとこの映画の中で最も普遍的で立派な人なのかも知れないとも思う。そして殻に閉じこもる類似性として、村上春樹作品の主人公っぽい(閉じこもるを例えて、靴箱の中で生きて行けたら、というような主旨の文章、あったな)。そう言う意味で単純に私は村上春樹作品に批判的になれない。ただ、ずっとそこでそれだけ読んでる、というのは好きになれないのだけれど。
メアリー・ラムの境遇も悲劇性が高い・・・旦那も息子も25歳になれなかった、という事実はヘヴィー過ぎる。それでいて、決して自堕落なわけではなく、職務をこなす。ただそれだけで立派。こういう人々の事を笑ったり、だしにしたり、残念な人という態度をとる事がいかに下品であるのか?を描いてもいる。
また、もう1人の主人公であるアンガス・タリ―については、悲惨な幼少期で、親にも見放され、統合失調症の発病の危険もあり、同情を禁じ得ない。のだが、あまりにサル、そうホモサピエンスのいわゆる男性は基本幼少期から欲望に忠実であり、短絡で、疎外者を出す事でのみ結束出来る、サル山のサルと同じ腕力という暴力的な因子での順位、ヒエラルキーを欲して生きており、精神年齢は基本的に実年齢からマイナス20というのが日本社会で50年ほどサバイブしてきた私(男)の調査結果です。中には漫画で役職を題名に入れて未だに、ヒエラルキーとラッキーというか自分では何一つ努力せずになんとかなる(これも正直村上春樹っぽさがある)というサラリーマン向け漫画の主人公のように(まだ死んでないと思うけれど)80近くにってもマイナス80歳くらいしないといけない感じの生き物もいるのです。そして詳しくは理解出来ないし結局永遠の私には謎だが、ホモサピエンス女子も、全く違った意味でのダメさがあると思われるが、基本的に話が通じない、と感じるのでその辺は触らないようにしたい。
なので、タリ―は可哀そうな境遇だが、高校で再入学をしていたとしても、そして21歳にはなっていない(確か21歳から飲酒可能)としても、なんとなく自業自得感がうっすら感じる。この人の演技に良い部分があるのも事実だが、私は少々自意識過剰な匂いを感じたし、ちょっと年齢が上過ぎる・・・もう少し若さ、もしくは暗さが欲しかった、あくまで個人的な意見ですけれど。
しかし、だからこそ、この今はサルに見えるとしても、反抗的であったとしても、頭脳の回転が良かったとしても、ハナム先生よりは若い、このタリ―の為に、自分の余生を犠牲に出来るハナム先生の、苦しくとも善き事、利他の精神の発露が美しい。
なんというか、必要以上にベタベタしない、なんなら連絡先だって交換しない、この距離感が、タマラナイ。そうこの時代に携帯電話もネットもSNSも無いのだから。
黙ってやり過ごす事も必要だけれど、それだけじゃないところも良かった。レミーマルタンは好みじゃないけれど、ジンビームが呑みたくなる。グリーンブックのカティーサーみたいに。
この映画が好きな人と話してみたい。

「ベルリン・ファイル」を観ました

2024年8月20日 (火) 09:25

 

リュ・スンワン監督     cjエンターテイメント     U-NEXT
2024年公開映画/2024年に観た映画  目標 36/100です。 現在は23/79
今、劇場でかかっている「密輸1970」という作品がかなり面白いらしく、評判を聞きます。監督リュ・スンワン作品はまだ観た事が無いので、U-NEXTさんならあるかも、と思ったら、結構な数が揃ってました!流石U-NEXTさんです!!
で、普通は一番古い作品から順に見たいのですが(私は「処女作にその作家性が最も表れる派」です、例外もあるけれど)、何と言っても、あの「チェイサー」のハ・ジョンウさんが出演している!という事でこの作品を観る事にしました。このハ・ジョンウさん、ナ・ホンジン監督作品で知ったのですが、カッコイイです。そして演技も凄い。私はアクション映画をあまり観ていないので何がどう凄いのか?がワカラナイのですが、この人のアクションの凄さは理解出来ます。
2013年公開映画ですけれど、全然知らなかった・・・
こめかみを抑えながら帰宅した男(ハ・ジョンウ)は隠し部屋で銃を解体して傷口を消毒し、というのが冒頭です。
この最初の場面でもうかなり面白くなりそう!という予感しかないです。物凄く緻密に計算されたスパイ映画だという事が理解出来ますし、期待も大きいのですが、最後までのその期待を裏切りません。
ベルリンの現在(2010年代か?)で陰で行われているスパイの暗躍を描いた作品で、かなり世界情勢を踏まえていますし、国際色豊かです。そして何と言っても、北と南に分かれている朝鮮半島の事情が見事に表れています。
とにかくハ・ジョンウさんだけでなく、役者さんが皆素晴らしいのですが、もう1人の主役とも言えるハン・ソッキュさんも素晴らしかったです。これはある種のバディムービーと言えなくもないです。
で、もちろんアクションが素晴らしいのでしょうけれど、私はそこよりも、脚本、そしてその脚本を見せる演出が特に素晴らしいと思いました。その上でアクションが必要なのだと思います。本当に脚本が秀逸!誰が敵で誰が味方なのか?そもそも裏切っているのは誰なのか?とかアラブ系、イスラエルのモサド、アメリカCIA、ロシア、本当にいろいろな人が出てくるのですが、それが収斂していき、まさかのバディ誕生という脚本が秀逸。ただし、ドイツ警察は無能扱いになりますけれど、そんな事は些細な事に感じさせてくれます。
これは素晴らしい監督と脚本。密輸1970も観に行かなければ。
韓国映画ファンの方にオススメ致します。
で、めちゃくちゃに映画「グレイマン」に似ているシーンがあると思うのですが、これは有名な話しなのでしょうか??

「PERFECT DAYS」を観ました

2024年8月16日 (金) 09:21

ヴィム・ヴェンダース監督     U-NEXT
2024年公開映画/2024年に観た映画  目標 36/100です。 現在は22/77
2020年代のTOKYOの早朝、アスファルトの上を竹ぼうきではく音が聞こえ、目を覚ます平山(役所広司)は・・・というのが冒頭です。
私は許可局員なのですが、基本的にPERFECT DAYSについては、東京ポッド許可局「PERFECT DAYSおじさん論」を聞いていただければ私の感想なんか全然意味は無いのですが・・・
昨年末から劇場でかかっていたにも拘らず、しかもヴィム・ヴェンダース作品ですし、劇場に行くべきだったのに、なんか地雷臭がして、なかなか足が踏み出せませんでした。で、それは結局今観て当たってた、と言わざるを得ないのが現状です。
非常に苦い告白になるのですが。
とりあえず、私の言いたい事は基本的に東京ポッド許可局「PERFECT DAYSおじさん論」に完全同意です。
こちらが そのポッドキャスト です https://www.youtube.com/watch?v=SmEhXsdtrIc&t=1684s
プラスするなら、めっちゃ村上春樹じゃないか、という事です。
なので、村上春樹作品が好きな人にオススメします。
ネタバレありの感想は、とても面倒で、苦い告白になる事でしょう。
アテンション・プリーズ!
ここからはネタバレあり、映画「PERFECT DAYS」のネタバレ、そして村上春樹作品の初期のモノですがどれだかワカラナイけれどネタバレがありますので、ご注意ください。また、基本的にそんなものに興味のない人が多いと思いますし、それが普通ですので、こんな文章を読むよりは、有意義な時間をお過ごしくださるようにお願いします。
ここからはネタバレしまくりますし、なんなら村上春樹のネタバレもしますので、十分なご注意を。そして、読んでて心地の良い文章ではありません。別に揶揄しているつもりもないです。そういう意図はありません。ただ単純に、そっくりですね、と指摘しているにすぎません。でもファンの人からは怒られそうですけれど。
めっちゃ村上春樹作品。おじさんに共感させるギミックに満ち溢れていて、この主人公は私だ!と思わせるのがとても上手い。読書、という能動的な行為でなら、さらに強く、この主人公(村上作品の多くの主人公は名前が無く『僕』表記)は私だ!+この物語は私が一番理解出来ている!と強く思わせるのが上手いのです。
という事は、基本的にハードボイルドに見せかけて実はご都合主義なわけで、しかし、主人公に感情移入していると大変心地が良い、という事です。ちなみに、読んでいないのに村上春樹を馬鹿にするのも本当に腹立たしいですし、だからと言って純粋に称賛しているわけでもなく、もちろん揶揄しているわけでもないです。読んでないなら、読んで批判して欲しいし、読んだならそれなりに読者に選ばれている理由もある程度は想像付くだろうに、それを排除した上で批判するのもおかしい。いつまでもずっと村上春樹に留まっているという事が、単純にどうかと思うよ、と指摘しているだけです、幼い頃に読んでいたら、そんなに単純に批判出来なかったでしょうね、と言いたい。
ああ、ホラめんどくさい感じになった・・・
まず、物語の冒頭の章ではおじさんの紹介です。ルーティンワークでトイレの清掃人で、こだわりが強く無口で、興味のある事柄は基本的に自分だけで完結出来る事しかなく、古い音楽と古本が趣味。写真も趣味。早寝早起きで自由な時間を大切にしているけれど、人と接触する事は最小限に留めている事が描写されます。
もうこの辺はもろに村上春樹作品主人公の典型例だと思います。随分前に読んだので出典は全部分かりません。分かりませんが「物事の半分しか話さない男がクールに見えて実践していたら物事の半分しか喋れない男になった」的な説明があったと思います。強く自分の殻に閉じこもる傾向にある主人公ですが、基本的に人には優しいですし、めったに怒らない。もうそのままに見えます。
次の章では同僚であるタカシ(柄本時生)との関係性を含めて、伯父さんである平山を説明してくれます。タカシは全くのダメ社員で女性ともうまく行ってないのですが、何故か(でた!)その彼女は平山に興味を持ってわざわざ会いにくるのです、しかもカセットテープを聞かせてくれ、と平山にとって好都合な事を言い、耳にキスして帰っていきます。
平山の仕事は都内のトイレの清掃なので、何処に何時現れるのか?はタカシの意中の彼女(金髪)にはまず分からないのに、平山にわざわざ会いにくるんです、カセットテープを聞かせて、とかイイ感じでこっち(このこっち、という表現が既に私も 平山 に共感しつつある、という事を暗喩していますね というツッコミが脳内で入るのでうるさい)に好意や興味を示してくれるんです、そういうのをご都合主義だと言ってるだけです。平山からは特に何のアクションも起こしていないのに・・・この辺がオジサンの夢が詰まってます。
女性にハーレクインロマンスが必要な様に(正直男性なので分かりませんけど、ほんとか?とは思う)男性にはハードボイルドが必要とは言われますけれど(私が言ってるだけかも)ハードボイルド作品には、主人公に都合の良い、少し悪くて、若くて、過去に何かがあった、主人公に勝手に好意を寄せる女が、だいたいにおいて出てきます。そういうものが(歳を取った男性の)夢だから、せめて現実を忘れさせてくれる、映画体験や読書体験の中ならいいじゃないか、と。ええ、別にイイと思います。現実を特別視しないのであれば。現実と夢を混同しないで対処できるなら、現実に夢をみないなら。
次の章では、銭湯、浅草の晩酌店、昼食の公演でのゆるいベンチの隣の言葉は交わさないけれど目は合う女性が出てきたり、通い詰めているであろう小料理屋の歌の上手い女将の店など、休日の様子まで見せてくれます。もう本当にルーティン。草木が友人なくらい。
最後に、妹の娘が突然家出してきて、まぁこれがすっごく「ダンス・ダンス・ダンス」のユキに見えるんですよね・・・家出してくる少女(何歳は不明だが高校生から大学生くらい)がおじさんの一人暮らしに来ますかね?しかも仕事に付いてきたり、もう本当に平山にとって都合が良い感じの異性の存在感、すげぇ。そのお母さんである麻生祐未さんもまた、なキャスティングで、おじさんたちの夢が詰まってますね。
で、平山が好意を寄せているのは、女将(石川さゆり)なんですけれど、その相手が三浦友和さんなんですけれど、この人の演技、そしてそうは言っても役所広司さんの魅力と愛嬌が無かったら、この映画は成立しなかっただろうと思います。でも、わざわざ飛び出した平山に、三浦友和が出会えるのは、まぁやはりご都合主義なんですけれどね。
PERFECT DAYS凄く完璧なタイトル。こういう生活に憧れるおじさん、たくさんいるんだろうな・・・そして大丈夫かヴィム・ヴェンダース、もちろんヴィム・ヴェンダースだっておじさんなんだから、仕方ないのだけれど。
そしてwiki調べなんですけれど、ヴィム・ヴェンダースの作品の中で最もヒットした作品になってるみたいです・・・普通にショック・・・名作は「パリ、テキサス」とか「ベルリン天使の歌」じゃないの?個人的最高傑作は「夢の果てまでも」なんですけれど。
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