シュツットガルトバレエ団の来日があり、椿姫を観る機会がありました。オネーギンも観たかったのですが。
椿姫のバレエは、アレクサンドル・デュマの小説に、音楽はショパンで、コリオグラファーはジョン・ノイマイヤー、初演は1978年です。
物語は単純化されていますし、バレエですから、言葉がありませんので、感じ取れる人、もしくは物語を知っていないと難しいかも知れませんし、中でもバレエのマノンをベースにしていますので、マノンについても知らないと、なかなか悩ましい演出ですけれど、知っていればかなり複雑な面白さがあると思います。
単純に言えば、19世紀のパリの高級娼婦マルグリットと、青年アルマンの悲恋なのですが、高級娼婦マルグリットはアルマンの未来を案じたアルマンの父から身を引くように言われた事で、身を引いた上で、病死。その顛末をアルマンは遺言で読む・・・という話しです。
これを3幕にしているのですが、私は今までに、パリオペラ座のアニエス・ルテステュとステファン・ビュリオンが演じたものと、エルベ・モローとオレリー・デュポン(?たしか)が踊ったモノを観ています。そのどちらも非常に魅力的で、アニエスのマルグリットとビュリオンのアルマンは、まさに、大人の女と子供の青年の繋がりを感じさせますし、逆にエルベ・モローの踊りはアルマンの主体性を感じました。内に秘めたる何かを踊りに昇華する感覚がありました。
今回はフリーデマン・フォーゲルで味わったのですが、これが素晴らしい。
恐らく現在40歳を終えているダンサーなのに、舞台では若さを爆発させています。ちょっと年齢がシンジラレナイくらいでした。今まで観た中ではビュリオンの踊るアルマンに近いのでしょうけれど、もっとエレガント。余裕を感じさせる踊りなのに、若々しさがあるのです。音のリズムにピッタリで、且つ余裕を持たせているのは、恐らく動きの止めと動きの出だしの部分に、一瞬静止するんですが、その静止のピタリとはまる感じが、今まで観てきたダンサーよりも、恐らくシュツットガルトバレエはノイマイヤーの初演のバレエ団だからこその、何度も踊ってきた余裕なんだと思います。
必死さが伝わる事で良いこともあるのでしょうけれど、軽々と演技する事の方がより難易度が高いですし、何と言っても余裕を感じさせてくれます。特に、パドドゥの相手を敬う優しさはその着地や、支え方に現れると思います、私はバレエ経験者ではないので、正直全然ワカラナイのですが、観客として観ていると、そう思います。特に着地に、力の方向が床に向かっているままにしない、極端に言えば、着地させる瞬間に引き上げているように見えるのが、本当に素晴らしい。こういう気遣いこそ、紳士のなせる技ですし、難易度も高く体力の消耗は著しいはずなのに、さりげなく行えていて素晴らしい。
フリーデマン・フォーゲルが完全に舞台を支配していたと思いますし、踊りも表現も完璧に近い、好みの演出でダンサーでした。あまりにリフトが多いので、本当にキツイと思いますけれど、微塵も感じさせない完璧さ。
幕が下りた後、観客に応えるフリーデマン・フォーゲルは、全くの別の人、急に老け込んだ感覚がありました。どれだけ体力を消耗し、どれだけ役にのめり込んでいたのか?そしてアルマンというキャラクターがどれほど本人と遠い存在なのか?を理解させられる瞬間でした。本当に凄い人。
といい所ばかりですけれど、逆にマルグリットを演じたエリサ・バデネスにはかなり落胆しました・・・バレエは身体の動き、踊りで表現するものですし、その上で演出で、表情も重要なポイントを担う事があるのは承知しています。が、顔の演技が強すぎるのは個人的にどうしても受け入れがたいです・・・なんというかオーバーに感じてしまい興醒めです・・・
それと、あまりにオーバーな踊りも好みでは無かったです。とにかく顔の強さが・・・
日本のバレエを習う、もしくはプロとして踊るダンサーは、バレエを踊る自分が大好き、というタイプの人ばかりで、ごくごく僅かに、バレエが好き、という人が居る感覚があるのですが、なので、どうしても、舞台での演技が、演技させられている感覚ばかりです。もし、頬を寄せ合うという演技があれば、そこには頬を寄せ合う動機や情熱がありそれを双方が望んでいるロマンティズムがあるからこそ、の表現であって、ただ単に頬を寄せる演技をやらされている人ばかりだと思います。なので、全ての、特に踊りでない部分の演出が、お遊戯、に見えるのだと思います。
海外のバレエ団でこの手の演出は皆無だと言って良いと思います。お遊戯をしている場面は観た事がありません。それはバレエ作品といえど、人間であるホモサピエンスが行っている限り、伝わってしまうと思います。その動機の部分や心情を理解して演じないと、あくまで頬を寄せろ、と言われたから、という形骸化しか起こらないと思います。この形骸化は、本当に害悪だと思いますし、観客に甘えていると思います。
プロの踊りを、バレエを観に来ているのだから、そしてここは日本なのだから、演技が甘いのは理解してくれるよね?と言っているに過ぎないわけです。同じお金を払って観劇するなら、バレエに限っては海外のバレエ団やダンサーを観る方がよほどバレエファンを増やす事が出来ると思います。
そもそもダンサーの身体として、日本人に不向きなのは理解出来ますけれど、もう少し真剣さが欲しいです。
こういう点をバレエの批評家は指摘してこなかったのでしょうか・・・これでは世界で勝負できるダンサーが少なくなるばかりだと思います・・・数で言えば、昔よりも大量に渡航し、バレエ団に採用されていたとしても、個性あるダンサーが、この人が観たいと思わせるダンサーが生まれてこないと思います。
最近新国立バレエに加入された水井駿介さんいは期待しています、牧阿佐美バレエ団のアルルの女に出演していた水井さんは本当に素晴らしかった。