法月 綸太郎著 講談社
とても久しぶりの新本格ミステリーです。新本格って今そういうジャンルってあるんでしょうかね?詳しい定義は分かりませんが、私にとっての新本格ミステリ作家と言えば、この法月 綸太郎さんか、綾辻 行人さん、有栖川 有栖さん及び島田 荘司さんです。特に綾辻さんの「十角館の殺人」と法月さんの「密閉教室」は個人的にはかなり面白かったですし、一連の「館」シリーズ(新作が出るみたいですね)と法月シリーズは結構読んできたと思います、だいぶ昔の話しですけれど。
新本格ミステリ、というジャンルを超えようという試みとしての、法月 綸太郎の葛藤を描いた「頼子のために」、「一の悲劇」、「ふたたび赤い悪夢」はかなり特殊なミステリだと思いますが(「虚無への供物」中井 英夫著がミステリの中の異物であるのと同じ意味合いで)、『探偵』という役回りの『業』を超えようとするものであり、自意識との葛藤であり、青臭くてどうしようもないものではありますが、しかし同時に身につまされるものでもあり、端的に言えば〈文学的〉ともいえるものであり、非常に驚いたことを覚えています。その後継者は恐らく舞城 王太郎さんでしょうね。だからこそ、舞城さんがミステリ作家として登場し、後に純文学系に移行していったことも頷いてしまいます。が、そこを、あえて(というように見える)踏みとどまったのが法月 綸太郎シリーズなのだと思います。だから、気が付くと読んでいる作品多いですね。「二のj悲劇」も二人称で迫る叙情的な作品でありますし、その萌芽はデビュー作「密閉教室」既にありますよね。
そんな法月 綸太郎シリーズ(作家名と同名の探偵 法月 綸太郎が父親である警視の法月と共に事件を解決するという、エラリィ・クイーンの取った設定を使っているシリーズ)の最新作がこの「キングを探せ」です。
正体不明の4人が交換殺人を起こす事を冒頭で犯人の犯罪計画をしている部分を曝け出しておいて、犯人たちとの知恵比べをすることになる法月 綸太郎の活躍を描く作品です。ですので、残念ながら『読者への挑戦』はありません。なので、トリックを考える面白さは比較的薄く、犯人たちの仕組んだ事件そのものを解決するに到る過程を楽しむもの、と考えていただけたら間違いありません。
優れた作家であっても1ダース以上の優れたミステリーを残すことは出来ない、と言ったのはヴァン・ダインでしたっけ?この作品はあくまで法月シリーズを追いかけている人にだけ向けた作品と言えるかもしれません。
なので、法月 綸太郎シリーズを読んだことのある方にオススメ致します。
コメントを残す