阿佐田 哲也著 角川文庫
青春編の続きです。
腕と名前もそこそこ知れ渡った「坊や」こと哲也が、あろうことか前作であれだけその末路がどういうものであったかを理解していたはずのヒロポンの中毒に陥っていて、なおかつ生きる糧であった麻雀で負けてしまうのですが・・・というのが冒頭です。
敗戦から少し時間が経ち、青春編で見せたようなドン底からは脱していたように見せて、もっと暗く、もっと寒く、もっと冷たい世界があることを理解させる鮮やかな冒頭で、思わず引き込まれます。全くこのような文章のセンスは圧倒的ですし、上手いです。1人称で語りながらも、しかしその自分さえも突き放している視点の確かさが、それを可能にしている意識の高さ(客観視性)と単純に文章力の高さが素晴らしいです。
今回は舞台を大阪に移し、少し毛色の変わった世界でもありますし、もっとよりキワドイ世界のように見えますし、麻雀だけではない、それ以前から始まっている勝負の世界の様を見せ付けてくれます。最も感覚的に言えば、正しいとか、正義だとかとは全く無縁の世界ですが、まさに『生きていく』とはこういうことである、という厳しさを見せてくれます。だからこそ、大衆小説でもありながら、様々な人々に支持されてきたのであろうと思います。
この風雲編もまた新たなキャラクターが登場するのですが、またまた非常にキャラが立っていて素晴らしく、その見せ方も上手く、しかも舞台は大阪、方言も相まって素晴らしいです。
また、この本も青春編と同じように最後の展開が秀逸でして、読んでいただくしかありませんが、まさに放浪記、です。
麻雀が好きな方、戦後の日本の姿の一端に興味がある方、そしてエンターテイメント性ある作品に興味のある方にオススメ致します。
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