ディミトリ・フェルフルスト著 長山 さき訳 新潮クレスト・ブックス
ベルギーの田舎町に住むローティーンのぼくは祖母とその息子である父、そして父の兄弟である3人の叔父と暮らしています。そんな親子3代に纏わる連作短編です。どうしようもなくいわゆる破天荒な生活、働かないので母親の年金頼り、礼節に欠け(トイレも食事も清潔さとはかけ離れた世界!です)、その上大酒のみであることを誇りとするような、しかしそれでいて何処か憎めない信条を持った男達の日々を追い、成長していくぼくの物語です。
作者を匂わせる「ぼく」の視点から見たとんでもなく「残念な日々」を赤裸々に語るのですが、これがもうツカミとして素晴らしすぎます。男子が集団になるとよりお馬鹿な面が加速するわけですが、その辺の描き方が面白いです。
私の好きな話しは、叔母が連れて来た同年代の女の子シルヴィーとの邂逅と人物紹介が素晴らしい「美しい子ども」、叔父ポトレル(ぼくと最も年齢が近いギリギリ未成年の酒飲み)が開催した酒飲みの新たな競技である〈ツール・ド・フランス〉を扱った(本書の中で最高に笑える短編です!)「ツール・ド・フランス」、フェルフルスト家の男たちにとって神に等しい歌手ロイ・オービソンの復帰ライブをテレビで見るための騒動を扱った(ロイ・オービソン!!という選択が素晴らしいし、泣ける)「オンリー・ザ・ロンリー」、です。そしてこの後の短編からネタバレになりかねないので割愛しますが、この後の短編も、そしてこの連作短編の行き着く先も、そのオリジナリティも、非常に感銘しました。
父親であるピー(ピエール)、その弟達ズワーレン、ヘルマン、ポトレルというキャラクターたちの破天荒さに、確かに笑わせてくれますし、私はかなり親しみを覚えますし、単純に面白いのですが、それだけでない場所へ、知らないうちに連れて行ってくれます。その場所が素晴らしい。そして忘れてならないのが翻訳の上手さ、この方言の使い方はとてもしっくりきました。
冒頭のページに差し込まれた
「本書の中の特定の人物と実在の人物が似ている場合には、純粋に著者の人間に関する深い洞察力による。」
という一文のツカミはかなり強力でした。なかなかの文だと思います。
家族が居た人に、基本男子に、オススメ致します。
今週土曜日、緊急ですが、午後を休診とさせて頂きます、すみませんが、よろしくお願い致します。
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