横田 増生著 朝日新聞出版
テレビウォッチャーで批評家、そして消しゴム版画家。文章と消しゴム版画の組み合わせてひとつのスタイルとして批評する書き手で、いわゆるコラムニストという範疇に入るのかもしれません。が、この方の物事に芯を射抜く言葉と、当然降りかかってくる自身への批評性にまで波及して、なお曲がらないモノを持った方でした。が、没後10年という区切りに出ていたので読みました。そうか、もう10年になってしまうんだ、というのが読む前の実感です。
私はかなり後期の読者でしたが、特に東京ローカルの「TVチャンピオン 元祖大食い王決定戦」にまつわる大食いものへのコラムで非常に惹きつけられました。本当に物事の本質を鋭い言葉で射抜くセンスは後にも先にもこの人以上の方はいないと思ってます。
著者は生前のナンシーさんにはお会いしたことが無い、畑の違う人であるのですが、だからこそ、冷静なアプローチが出来ていると感じました。ナンシー関の出自に迫り、親しかった人々やコラムという世界の同業の人に話しを聞いたりしたものを、まとめたものです。
ナンシー関さんの文章の鋭さと、なんと言いますか、自分を客観視しつつ、対象にツッコミながらも、返す刀で自分もツッコむ、というスタイルが、私にはとても心地よく、カッコよく見えたことをとてもよく覚えています。割合早い時期にこのスタイルが出来上がっていることを知れたのは良かったです。当然ながら誰しもある若くて青い時期がナンシーさんにもあったののも知れて良かった。ただ、無論知らなくてもナンシー関のコラムの面白さは微塵も揺るぎませんが。
そしてもちろん代名詞である消しゴム版画の面白さ、本質を一言で表せる鋭さ、それも特にテレビ画面から滲み出る文章になってない自意識過剰な部分を、版画と一言で纏めるというのが、素晴らしすぎる。特にキライであろう人物への遠慮ない一言は切れ味が増していると思う。例えば本書でも扱われている(私もキライな人物であるので余計に心地よいわけですが)前忠、小倉、うの辺りへの誠に辛辣で、しかも一言で表せる感覚はちょっと怖くさえ感じさせます。しかし本当に残念ですね。
実際、タイトルの付け方も非常にキャッチーですね「小耳にはさもう」とかほんとタマラナイ感覚だと思います。香港旅行の話しも秀逸でしたし、これはナンシー関のコラムではわからなかったことなので、しかもよりナンシー関っぽい感じが伺えて面白かったです。また自動車免許を取得に3年かける辺りの話しも知れてよかった話題です。ムーンライダースやたけしのオールナイト・ニッポンなど、関連するもの、関連する人の話しを丁寧に扱っているのも良かったですし、好きなコラムニスト小田嶋のナンシー関への言及も聞けて良かったですし、バンド活動していた、というのも知らない情報でした。またカラオケを恥ずかしい、しかし歌う心地よさは認める、というところから、カラオケ飲み会を開催するにいたるまでの呑み込みの時間のかかり方がまた良かったです、納得してしまいました。
ナンシー関が好きだった方、テレビのテレビ的な胡散臭さを一言で切れる、そしてテレビがちゃんと好きな方に、オススメ致します。
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