マキタ・スポーツ、プチ鹿島、サンキュー・タツオ、みち著 新書館
ラジオで知ったwebラジオの「東京ポッド許可局」という番組を、聞いてみたのですが、非常に面白い駄馬話しに満ち溢れる、そして行間を読むオトナの会話や興味深い話し(かなり文系寄りではあります)が繰り広げられていて、個人的なツボにハマリマシタ。で、毎回楽しく聞いているのですが、去年に書籍化されていることを知り、手に取った次第です。
マキタ・スポーツさんは作詞作曲モノマネという全く新しいジャンルのお笑いの方なんですが、いわゆるモノマネではなく、ある作詞作曲をする人物の特徴を捉えて、この人がこんな曲を作ったら?という曲を披露出来る方です。ということは、かなり細かく元の方の作詞作曲を解体して特長を抜き出し、しかも新たな曲を作れるという非常に面白い方です。面倒な方でもあるのがこの行程でも分かりますが。
プチ鹿島さんはやはり芸人の方です。この本で初めて存在を知りましたが、とにかく例えが全てプロレス、という方です。とても詳しく、しかもパラフレーズが全てプロレスなんですが、しかし、私のようなプロレス弱者であっても理解できるように例えて解説してくれます。ですが、何故このプロレスに例えたか?という説明が入ってくるので、余計に説明が説明を呼ぶという、これまたメンドクサイ人です。
サンキュー・タツオさんも芸人さんですが、芸人さんの前に学者がつく方でして、日本語を専門に扱う方です。また落語やアニメや漫画に詳しく、いわゆるサブカル系なんでしょうけれど、『見立て』や『ソシュール』の話しもしてくれるインテリな方です。そして、やはりちょっとメンドクサイ方ですね。
そんな3人が、日常で気になったこと、を時に真剣に、時にハスに眺め、時に上手くチカラの抜けた感覚で、分かり易いように様々な言い換えをしながら、しかしその言い換えがの裏に知性を、論理を、見立てを含みながらされる駄馬話しされているwebラジオを文字起しして書籍化したものです。
文系メンドクサイ3人の話しなので、非常に回りくどく、もしかすると求めていた答えが出なかったり、全然違う道筋に出てしまうこともあるのですが、しかし、だからこその可笑しさを含んでいて、まさに井戸端会議にある種の知性やエンターテイメント性を含んだものに出来上がっています。
言い換えの面白さの裏に、それぞれの得意なジャンルが広がっていますので、さらなる説明が必要、というメンドクサさがあるのですが、このメンドクサイさこそが可笑しさのフィルターになっているかのようで面白いのです。マキタ・スポーツさんの音楽、プチ鹿島さんのプロレス、サンキュー・タツオさんの落語や文学や漫画などのサブカル、どのジャンルも詳しくない私でさえ分かるように説明してくれますし、その説明が面白いんですね。特に個人的には全然興味が無かったプロレスに例え、しかも説明するというやり方で、興味を沸かせたのは本当に上手いと思いました。知らないちょっとした事でも知る楽しみがあるトリビアルな楽しみ方を上手くフックに出来ている話術があると思います。
私が好きな話しは、ロマン主義と自然主義あるいはベタとシュールの垣根をめぐる「『真っ赤なスポーツカー』論」、泣くという排泄行為をめぐる話し「『排泄映画』論」、非常に論理的なお笑いをめぐる「『手数』論」、プロレスラー三沢の死から欲望の総量を経て至る「『悪性エンターテイメント』論」です。
コラムも面白く、マキタ・スポーツの「オリジネータータイプとフォロワータイプ」、プチ鹿島の「悪性を考えることは悦びである」、サンキュー・タツオの「すべらない話し」等のコラムの水準も高いと思います。おまけについてる局員語録がまた強いパンチラインでして、もっといろいろ聞いてみたくさせます。特にサンキュー・タツオさんにシンパシーを感じました。
この本を読んで、プロレスと落語には非常に興味沸きました。これ以上いろいろな興味を持ってもなかなか深められないでしょうけれど、興味ありますね。
メンドクサイ文系男子の方、昔そうだった方に、オススメ致します。
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