ローリーン・スカファリア監督 ミッドシップ
終わりの物語って結構好きです。名作漫画ですが「西荻夫婦」やまだないと著にもそんな感じの台詞があったと思いますし、『おしまい』を想像しておくと後悔が少なくなると思いますし、精一杯出来るような気がするのです。その『おしまい』が世界の終わりとかでもいいですが、個人的な感情や気持ちの終わりも含まれると思います。その後も続くことを考えに入れておくのが重要なのかな、と。昔「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」(村上 春樹著)が好きだったせいもあるかもしれません。
大きな小惑星マチルダが地球にぶつかる事が明らかになり、全ての阻止計画が失敗に終わったというニュースを聞いた瞬間に、助手席に座っていた奥さんに捨てられ走り去らるという経験をしたドッジ(スティーブ・カレル)。世界はあと3週間後に全てが無くなることが明らかになったわけです。それでもこの終末をなんとか理性を振り絞って生活しています。ふとしたことで知り合った隣人ペニー(キーラ・ナイトレイ)はこの3年もの間に間違われて配達されたドッジ宛ての郵便物を保管していて、その中にはドッジの昔の恋人からの手紙が混じっており・・・というのが冒頭です。
『世界の終末』というネガティブに捕らえれば死ということを、よく考えてみると、実はその後の事を考えなくともよくなるというポジティブに置き換えられる要素に満ちた作品であり、その点に於いてよく考え練られた脚本だと思います。もし『あと3週間後に全世界が終わってしまうのであるならば、その前にあなたはなにをしますか?』という問いかけは絶対に避けられない終末を皆が一様に迎えるという事で、かなりオプティミスティックな甘美的な色合いを示していると思います。もちろん恐ろしくも哀しい出来事でもあるのですが、しかしよく考えてみると、誰しもが、生きている以上、いつかは死んでしまうわけで、当たり前な状況とも言えます。
で、この映画の中には様々な終末に向けた行動をとる人々が出てきますが、そのどれもが、説得力ある台詞で補強された、生きたキャラクターのように感じられて凄かったです。もし、終末が、それも全世界が同時に、という状況を考えると、どういう人がいてもおかしくないとは思いますが、そのリアルさを飲み込ませやすい演出や脚本だったと思います。反道徳的な世界への侵入や、破壊衝動に駆られる人々、自暴自棄になる人や、節度を守る人、あるいは生き残りをかけサバイヴへの準備を整える人、等々およそ考えられる様々なタイプの人々がそれぞれの思惑で主人公たちと接してくるんですが、本当にリアルに感じられました。
スティーブ・カレルの眉に立て皺の入った困った顔がどこか笑わせますし、ナイトレイのチャーミングな笑いも良かったですが、思いの他犬のソーリーが良かったです。私はどちらかと言えば猫派ですが、この犬ソーリーは可愛かったです。そして音楽も普通に良いのですが、あまりにセンチメンタリズムが強いのではないか?とは思いました。よく知っている曲が無かったからなのかもしれませんが。映像は綺麗でいいです。
最後の最後でご都合主義な展開が待っていて、その辺は多少気分的には削がれましたが、ハートウォーミング人類滅亡型コメディという新たなジャンル作品として楽しめました。
「世界の終わり」を想像したことがある人に、オススメ致します。
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