東中野にある映画館ポレポレ、初めて足を運びました。ドキュメンタリーの傑作という噂を聞いたのと、DVDにする予定が無い、との事で観ました。
「隣る人」
刀川 和也監督 アジアプレス・インターナショナル
事情があって親と暮らせない子供を預かり育てる、という施設に密着しカメラを回しているドキュメンタリー映画です。いわゆる「児童擁護施設」のひとつを追いかけているのですが、私には衝撃的な映画でした。子供、というまだ弱くて未成熟ではあるのですが、自我が存在する人間を育てる、という事がどういうことなのか?を突きつけられる映画でした。
児童養護施設で暮らしている保育士マリコさんが担当する2人の女の子、小学校低学年と思われる少し言葉使いは悪くて駄々っ子のムツミとやはり小学校低学年の甘えたがりのマリナ。さらに数十人の子供たちに加え、職員の数も多いですので、下駄箱はなかなか壮観な光景になっています。そんな毎日を淡々と映し出すのですが、その淡々とした日々の中にも大きな起伏があり・・・というのが冒頭です。
子供という人間の存在を、その純真であるが故のもどかしさを感じずにはいられない作品でした。またその子供に、そしてこの施設で暮らす子供に寄り添うのが保育士さんという方々です。この方たちの、真に純粋な考え方をもった方々がいらっしゃる事そのものが素晴らしい事だと思います、とても真似できない、そしてこの保育士さん方のご家族はどうしていらっしゃるのだろう?という素朴な疑問(ここまで施設の子供に寄り添う生活をすることは、現実の家族との繋がりを希薄にすることに他ならないのでは?)さえ浮かぶくらいの献身ぶりです。
わずかに感じさせる恐らくキリスト教の影響を感じずにはいられないものがありました。信仰という人を突き動かすチカラの凄さを感じずには居られません。
また、あるシーンで泣く泣く別れを経験する子供の、真剣な恐怖は、戦慄を覚えるほどのショックがありましたし、終盤ある子供に流れが収束してゆくんですが、その顛末の親子である2人のそれぞれの想いが、蟠りを感じつつも良かったと思え(のは、この後2本立ての「はちみつ色のユン」を見たからで、この2本立てを考えた人が凄すぎる!!!!!)ました。
保育士さんと子供の繋がり、そして子供たちの喜怒哀楽の激しさの中に、心打つ物があり、正直言って結構ショックでした。私はどちらかと言えば『家族』に対してそれほどの強い繋がりを求める方ではありませんし、結局のところ、血の繋がった『他者』であることに変わりないと感じてるんですが、やはり子供の頃がいかに恵まれていたのか、と思わずにはいられませんでした。いろいろは感謝はしております。
単純な面白さ溢れるエンターテイメント作品とは言えないけど、多くの人が観れば何かが変わるのではと期待をさせるくらいの衝撃度で少々疲れてしまったのですが(でも観て本当に良かった)、続けて観たのが「はちみつ色のユン」です。個人的にはこちらの作品の方が心に迫るものがありました。
「はちみつ色のユン」
ユン ローラン・ボアロー監督 トリウッド=オフィスH
朝鮮戦争の際に孤児となり、ヨーロッパへと養子縁組でやって来た5歳のユンは、韓国の何処で生まれたのか?母親や父親がどんな人であったかさえ知らずに、ベルギーのある一家で「家族」として育てられます。「家族」は両親と4人の兄弟からは家族として触れられているのに、何処か素直になれないユンは・・・というのが冒頭です。
こちらも『家族』を扱った作品です。朝鮮戦争について詳しくは知りませんが、しかしとにかく、ベルギーを含む様々なヨーロッパの国々が養子縁組を引き受けた、という事実に衝撃を受けました。アジアではなく、欧州というのがびっくりでした。
この状況に置かれて育ったユンがアニメーションで回想部分を表現し、祖国である韓国を尋ねる現代部分を実写で扱うというのが新鮮でしたし、アニメーション部分のディフォルム具合が絶妙にシリアスになりきらないが、しかしリアルというラインで見せてくれるので、非常に引き込まれました。
ユンが疎外感を感じつつも、しかし、人が育つ、という過程においては様々な事が起こりうるし、順風満帆であるはずがないし、感情の齟齬を乗り越えるからこそ、何気ない一言が、過去の出来事を繋いで、納得してしまったりする日常の中で起こる、何気ないけど劇的な瞬間を見せるのが非常に上手かったと感じました。
家族というものは作られるものであるのだなぁ、という事を実感しました、血の繋がりよりも、民族よりも、その育ち生活する過程の重要性を確認させてくれます。
家族について考えて見たい方にオススメ致します。
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