絲山 秋子著 新潮社文庫
絲山さんのストーリィは骨太なモノを感じさせます、それでいてぎゅっと濃縮されているのでコストパフォーマンスの非常に高いのが特徴だと思います。私は比較的絲山作品を読んでいる方だと思いますが、いつも通りであり、いつもと違う感覚に落とされます。中でも好きな作品は「沖で待つ」の中の短編「勤労感謝の日」と「逃亡くそたわけ」です。
今回も3つの短編集でして、短編作家としての道を着実に歩まれていると思います。とても面白い切り口で、文体こそ違えども、人称を変えても残る絲山さんの文章の匂いがあって好きです。なにしろ普通であればもっと長く文章を紡ぎ、演出や構成を経た後でしか出せない達成ポイントまでを、とても短い構成で最大限のカタルシスを得させてくれます。こういう能力は私の知る限りあまり近い人を知りません。
本書の中でも好きな作品は、専業主婦である理津子が夫の浮気を知りつつ生活する事で起こる摩擦を超然という単語で受け止めてみせる表題作「妻の超然」、そして九州男児でありながらも下戸であることのコンプレックスをさらにひねって見せる「下戸の超然」です。どちらの作品も短いながらも胸焼けしない程度のカタルシスがあって本当に面白いです。でも、最も実験的なのは「作家の超然」でして、面白く読みましたが絲山さんの健康面が心配です。
村上春樹が100万部売れるなら少なくとも50万部くらい売れてもおかしくない作品だと思うのですが、そうでもないみたいですね。リーダビリティ高くて重過ぎないカタルシス、という括りなら似ているとさえ言えそうです、全然似てないけれど。(ちなみに村上さんの新作読みました、いつもと同じです、大丈夫面白いですよ。でも今までと同じ面白さで、そこから出る事はありませんよ。普段本を読まない人に読ませるんですから凄い事です。)
読みやすい上にカタルシスがある上手い作品が好きな方に、オススメ致します。
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