スティーブン・スピルバーグ監督 20世紀フォックス
スピルバーグの最新作!というわけではなく、ダニエル・デイ=ルイス主演という事で観てきました。アカデミー俳優の方にこんなこと言うの失礼なんでしょうけれど(でも、アカデミー賞が評価の基準ってわけでもありませんし、あくまで個人的な印象の方が重要ですよね)、上手い俳優さんだと思います。有名な「眺めのいい部屋」とか「マイ・レフト・フット」とか「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の演技もさることながら、私には「エバー・スマイル・ニュージャージー」の役者さんとしてインプットされています。
まだ大学生の頃に観た映画でして、主役が歯科医というのが驚きました。サイドカーの助手席を診療台にして、旅をしながら治療する青年歯科医をダニエル・デイ=ルイスが演じていて、マイナーな映画でしたが歯科大学に入学した年の冬休みに観に行ったのを覚えています。ヘンテコリンなロードムービーでしたけれど、最後の決め台詞「どうしよう!世界は終わってしまったのに、私は立ってる」というのがとても印象的な映画でした(ネタバレになしますが、もうこんなマイナーな映画はビデオでも見当たりませんしね!)。
そんなダニエル・デイ・ルイスがリンカーンにしか見えない演技で素晴らしいです。
南北戦争中のある戦地へ向かう若い兵隊がリンカーンの下にやってきて、あの有名なゲティスバーグの演説内容を語り、誇りを持って戦地へ赴こうとしています。リンカーン大統領(ダニエル・デイ・ルイス)は戦争による被害が増え続けている事に心を痛めつつも、戦時であることを理由に、なんとか合衆国憲法に奴隷解放の修正を加えるべく働きかけているのですが、当の共和党の中でさえまとまりを欠いている状況で、しかも下院での修正はほとんど無謀にも思えるような状況で・・・というのが冒頭です。
とても、とても淡々とした映画でした。
人間であり、夫であり、父親であり、大統領であることにとことん苦悩するのですが(ある人物の前でだけはその苦悩を吐露するのですが・・・)、しかしその苦悩を受け止め、ちょっと立ち止まって笑いや逸話を交えてもう1度前向きになろうとする様が、事実かどうかは知らないのですが、納得してしまいました。
合衆国憲法に修正を加える、という今現在の日本でも起こっているような重大な案件に対して、再選されたリンカーンが、その信を持って着手し、しかも奴隷制度というその当時であれば『財産』と認められていた「モノ」を(下院議会では奴隷のみならず女性にも参政権を与えることを罵る場面もあるのですが、現代という時間から見るととても差別的な言葉を口にする議員が多数で非常に驚かされます)、「人」として扱う、という事に驚かされます。
信念を持って、とはよく聞かれるフレーズだと思いますが、本当に信念を通すことは、実は非常に難しく苦いものであることを考えさせられました。偉人の話しはとてもバランスが難しいと思いますが、この映画では綺麗にまとめられていると感じました。だからこそ、リンカーン大統領が苦悩し続けるのではないか?と思います。
戦時であるからこそ憲法に修正を加えることが可能であり、南北戦争を終結させたいが、それは修正案が下院で可決された後でが望ましい、というジレンマに苦しめられます。戦死者が増える行為を続けなければならない事になるからです。しかし未来で生まれてくる人々の権利を回復することにも繋がるのです。様々な立場の人々が様々な理由でこの修正案に異議を唱え、ロビーストのような交渉やポストを与える密約まで出しながらも、それでも足りない部分をどう埋めていくのか。また急進派である人物を取り込むことでの危険性の話しもスリリングでした。
チラリと出てくるジョセフ・ゴードン=レヴィットがまたまたカッコイイ役でした。
そして何より、大統領が「それは今なのだ!」と訴えるシーンは本当に素晴らしかったと思います。
スピルバーグの映画が好きな方にオススメ致します。
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