リチャード・フライシャー監督 MGM
WHAT IS THE SECRET OF SOYLENT GREEN ?
私はどちらかといえば考えさせられる映画が好きなので、ハッピーエンドで見た瞬間からどんどん忘れていくよりも、見たことで自分の中の考え方を変えさせられるかのようなショックのある映画が好きです。なのでディストピア的な背景のある映画が好きです、何かの暗喩なのか?を考えたりするのって楽しいですし、監督や製作者サイドの意図を読み解ったつもりになる(もちろん私の勝手な解釈で、正しい解釈なんてありませんが【たとえ監督や原作者がコレを意図していた、とインタビューで答えようとも、作品は受け手の自由な解釈が担保されていると考えていますし、嘘を言う可能性を否定できません】)過程が楽しいのです。
まだ見てない名作なんてそれこそたくさんあるのですけれど、その中でも早く見たかったのがこの「ソイレント・グリーン」です。ジョージ・オーウェル著「1984」が好きな方ならきっと面白く感じて頂ける作品だと思います。私が何処でこの映画の事を聞いたのか?が思い出せないのですが、ディストピアを扱う映画の中でも面白い作品と聞かされてずいぶん経ってしまいましたが、ついにDVDレンタルになっているお店を見つけたので早速借りて見ました。
2022年、人口増加に歯止めがかからない状況下のニューヨーク。そこでは街に人々が溢れ、住居さえなくさまようまるで荒廃した世界です。世界は環境破壊が進み、食糧難に陥ってしまって、一部の特権階級以外の人々はソイレント社の海のプランクトンから作られたクラッカーのような配給食で飢えを凌いでいます。そこでは文明は失われたかのような世界で、食べ物は宝石のような価格で売買され、人々は既に野菜や肉を見た事さえなく、本さえ貴重な資料となっています。しかし特権階級の人々もわずかに存在し、きらびやかな居住空間に住み、美しい女性を家具として扱う(家具人間)ような世界も広がっています。その特権階級の一人であるソイレント社の幹部サイモンソンが何者かに殺されてしまいます。ニューヨークの警察であるソーン(チャールトン・ヘストン)は捜査に乗り出すのですが・・・というのが冒頭です。
とても素晴らしい映画でした!映像の退廃した世界の見せ方、音楽の選曲と映像の合い方も素晴らしく、役者さんも個性的でしかも演出も素晴らしい、やり過ぎない抑制の効いたものであり、アクションもサスペンスも、そして未来を感じさせつつ、人間の生活の変わらなさも受け手に思い出させるのが上手いです。
1966年に発表されたハリイ・ハリスン著「人間がいっぱい」を原作として制作された1973年の映画です。なので近未来社会派サスペンスという位置づけなんでしょうか?当時からすると、とてもショッキングな出来事を扱っています。生きていく上で絶対に必要な食糧を、配給に頼らねばならないくらいに追い詰められた状況が生み出す世界の切迫感と、それでも存在する上級社会のきらびやかで非日常的で耽美的な世界を行き来する刑事ソーンのキャラクターぶりも面白いのですが、設定そのものが、今を予感させる部分があって恐ろしくも面白いです。
家具人間(高級住宅に備え付けてある美しい女性をまるで『家具』のように自由に扱って良いと家具人間までもが信じ込めている!)や本人間(『書籍』という失われつつあるモノを利用出来る家具とは違ったまるでアプリケーションのような、ソフトとして人間を扱うことにこれまた本人間も信じて疑わない!)といった設定が非常に秀逸です。まさにラストを暗示させるのですが、まるで奴隷制度をさらに推し進めたかのような設定を受け手に飲み込ませる際の手腕も見事でして、決して言葉では説明していないのにも関わらず、いかに非人間的で、しかもそれを皆が享受している事を理解させるのが上手いです。
役者さんも素晴らしく、主役のチャールトン・ヘストンも素晴らしいのですが(刑事の時の粗野なような「演じている」感じと、家での本人間との関係性とのギャップが素晴らしいです)、ある人物を演じているチャック・コナーズという方の存在感はなかなか良かったです。
今見てもとても近未来感を感じさせてくれる、扱っているテーマも現代性に適った作品だと思います。結末の見せ方が、それまでの抑えた表現からすると少し違和感もあるのですが(個人的にはここも抑えて表現して欲しかったです、その方が余韻は深くなったような気がします)、とても面白かったです。
近未来作品が好きな方にオススメ致します。
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