井の頭歯科

「七人の侍」を見ました

2010年10月12日 (火) 11:05

黒澤 明監督       東宝

恥ずかしながら「黒澤 明」初体験です。日本映画にはあまり本数を見ていないですし、食わず嫌いな部分も大きいのかとも思いますが、ひょんなことから見てみようかと思った作品、かなり面白かったです。そして、子供の頃に何度も見ている「荒野の7人」(子供心にグッとくる映画でしたし、音楽も良かった、単純で)の元ネタ、という事実しか知らずに見ました。さすがに『世界のクロサワ』作品です、エンターテイメントであり、掘り下げ要素が満載でただのエンターテイメント作品ではありませんでした。

時は戦国時代。さびれた農村に野武士が毎年やってきては収穫物を略奪されていて、今年もその被害に遭う事が計画されていることを立ち聞きしてしまった百姓から、村で話し合いが行われ『村で武士を雇う』という奇策に出ます。報酬は好きなだけ飯が食える、というただそれだけです。早速村人の中の何人かが集落を出て侍を探すのですが・・・というのが冒頭の有名なシーンです。

おそらく多くの方々が見られていると思いますが、まさに納得の大作、非常に素晴らしい作品だと思いました。まず、設定に無理が無く、クライマックスへ向けての構成が素晴らしいですし、キャラクターは立ってますし、カメラワークも、映像も、役者さんのどなたもが鬼気迫る迫力があります。音楽というか効果音も凄いと思いましたし、正直見るまでは名作と言われていてもある程度『過去の作品』という先入観が何処かにあって、敬遠気味だったのですが、「面白いよ」と後押しを受けて良かったです。

リアルであることと、映画的リアルは別物でありうると私は考えますが、まさに映画的リアルを現実と錯覚させる臨場感に満ちた作品だと思います。百姓や武士であることの誇りうる(単純に使いたくない単語ですが)良い面と悪い面を、清濁併せ持った存在として描くことで、単純な善悪二元論に陥らない強さを持っています。

また、7人の侍の1人1人の関係性と人間性が素晴らしく、キャラクターに魅力があり、特徴的です。どの役者さんもほとんど見た事が無いのですが、絶妙な配役なのではないか?と思いました。ただ、三船さんの菊千代というキャラクターについて、少々やりすぎな感じは受けましたが。しかしやはり面白く、非常によく練られた脚本の上に撮影や演技が乗っていてその点も感嘆しました。そしてさすがの抑えの利いた演技の島田勘兵衛役の志村喬さんの重しがあってよかったです。どの方が主役であっても成り立つようなストーリィの中で重みを感じさせる演技、本当に良かったです。だからこそ主役であるのかと思いきや、最初に出てくる名前は三船さんなんですね、ちょっと意外でした。そこがまさに主役は「百姓」という意味なのかも知れません。また武士である皆が憧れる(だからこその強さと孤独を受け入れている)久蔵の孤高の、しかし非常に稀な侍像は特筆に価すると思います。おそらくほとんどの侍はこの世界で言えば野武士のような存在であったであろう中での、希望というか模範となりうる侍の姿は貴重でした。

個人的に気に入ったキャラクターは平八で、彼のゆったりした性格が過酷な中でも妙なリアル感を醸し出しているように感じましたし、やはりあの旗は印象に残ります。そして最後のお墓の前に佇むシーンの構図と余韻が私は特に好きです、素晴らしかった。

百姓(決して農民、ではないと思う)に興味のある方に、エンターテイメントに興味のある方にオススメ致します。

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