鴻巣 友季子著 文藝春秋
「恥辱」の訳者である鴻巣さんのエッセイ集です。文学、翻訳、ワインなどに思索をめぐらせて行くエッセイです、雑誌「文学界」に掲載されていたものですので、続きの感覚も面白いです。
訳者という仕事には結構興味があります。私は母語以外は全く(より正確に言葉にするなら母語でさえ操れるという言葉を使うのに躊躇いを覚えますが・・・)ダメですが、他言語を違う言語に変換する場合、特に文学の場合は、訳者の感覚、センスが問われると思います。映画の字幕の難しさとはまた違った感覚が求められると思います。作者の代弁者のような感覚が私にはあります。
鴻巣さんの翻訳がどの程度原文に沿ったものであるのか?とか意訳はどうなのか?などについては原文を読んでもいないですし、そもそも読めないわけで、私には理解できませんが、鴻巣さんの文章を読んで、とても読みやすく簡潔でいいな、と感じました。それは少し前に読んだ「恥辱」(の感想はこちら)とこのエッセイを読んで特に強く感じられました。本人の言葉と翻訳という違った道筋を経た言葉ではあるのですが、好印象を持っています。
そんな鴻巣さんのエッセイ、本と、翻訳と、ワインに非常に造詣の深い事が理解出来ました。
ワインは私も飲みますし、しかし正直割合何でもおいしくいただけるのですが、より深い理解には知識が必要ですし、とても広くて深い海なのだという事は知っています。そして翻訳についても、様々なタイプのものがあり、読み比べも楽しそうです。
特に気になったのは、いわゆる古典の新訳、どちらかというと重訳と呼びたくなる部分についての考察は新鮮でした。既に読まれている古典の新たな一面をどんな切り口で訳すのか?大いなる誤読や脆弱だが性格な翻訳なのか?それこそグラデーションの世界でもありうると思います、こういった部分に代弁者のようなところを私は感じてしまいます。
ワインや翻訳に興味のある方にオススメ致します。
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