吉村 萬壱著 文藝春秋
批評家の佐々木 敦さんがラジオでべた褒めしていたのと、その切り口が面白そうだな、と思った事、そしてディストピア小説、という事で手を出しました。あっという間に読める中編作品です。作者の吉村さんは初めて読む作家さんですが、なるほど切り口は面白いと思いました。
私はディストピアモノを面白いと感じてしまう感覚がありまして、ユートピアを目指して社会システムを構築した結果、何故だか生きにくい社会(=ディストピア)になってしまうという展開に魅力を感じます。とても不条理で悲しい反面、ちょっと滑稽な感じもしますし、現代の悪いジョークを含んだ展開、今もそうじゃないか?とか考えさせられるのが面白いと感じます。上手く出来てると非常に心に残ります。ジョージ・オーウェル「1984年」(の感想はこちら)とか栗本 薫「レダ」映画ですがテリー・ギリアム監督の「未来世紀ブラジル」はディストピアモノとして非常にインパクト強かったです。
ネタバレに繋がるものを避けて、の感想ですけれど、なかなかに読ませます。リーダビリティ高いと言えますし、これはどういう事なんだろう?と不思議がらせる事でのフックが強いです。
ある人の手記、という形をとっているのでいわゆる『信用ならざる書き手』というジャンル分けも出来るかと思います。
で、悪くないとは思う一方、そこまで両手離しで絶賛は出来ないな、とも思いました。どこかで見た、どこかで聞いたような話しに感じますし、ちょっとアレの影響が強すぎる気がします。すべての原因が「アレ」というのも少々芸が無い感じはしました。ディストピアモノは結構作り込みやそのシステムの構造や成り立ちにある程度の説得力がないと難しいと思うのですが、その辺が私の好みでは無かったです。
結末の切り方も、短編ならもう少し納得できたでしょうけれど、中編ですと、もう少しカタストロフィに説得力が欲しかったです。
が、確かに日本的なディストピア小説かもしれませんけれど、これなら、もう、既に、ディストピアを生きているとも言えるので、もう少し捻りも欲しいと、一勝手な読者として思いました。
ディストピア小説が好きな方にオススメ致します。
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