吉田 恵輔監督 東映
とある記事で「夢を諦めるのは非常に難しい、という事を描いた作品」と紹介されていたので興味を持ったので見ました。
吉田監督作品は「純喫茶磯部」、「さんかく」と見ていますがどの作品も小品ながら丁寧な作りで日常のちょっとした出来事を描いています。予算に限りのある日本映画が目指すべき方向性の作品だと思います。で、今作もなかなか面白かったです。
学生時代からシナリオライターになる事を夢見る馬淵(麻生久美子)は持てる時間のほぼすべてをシナリオつくりに費やしてはいるものの、34歳になりますが全く目の出ない状況です。が、生活の中心をシナリオにあて、忙しい毎日を過ごしています。失敗続きの中、コネも必要と、とあるシナリオスクールに通い始めたところで出会ったのが天童(安田章大)という非常に大きな事しか言わない28歳の男です。天童は自分は1枚のシナリオも書いたことが無いにもかかわらず、常に自信満々で他人の作品に辛辣な批評をするのですが・・・というのが冒頭です。
頑張る、という努力に惜しみない馬淵と、批評は正しくとも全く努力しない天童という2人の関係性の移ろいを描いた作品ですが、なかなか苦くとも爽やか結末を見せてくれます。
努力は必ず報いられるものでは無く、批評出来るからと言って作れるわけでもない、という割合シンプルで当たり前な事実の話しですが、その努力の量と時間や想いがあればこそ、簡単に諦める訳にはいきません。また、諦める、という事を認めるのも、非常に難しい話しです。
才能、という便利な単語だけでは済まされない部分への描写が特に良かったです。
が、難点もあって、ある意味軽い男である天童の、変化があまり腑に落ちませんでした。もっと重い展開でも良いのではないか?と思います、事実彼はそれだけの暴言を吐いてきたわけですし。全然、全く、1ミリも自分への批評性を持たなかった男が、周囲にまき散らす正しい批評に意味があるなら、その男の作品への批評ももう少し辛辣であって良い気がしました。この役者さんの演技が上手下手という話しではなく、存在感が軽い、というのはある意味凄いとも思いますけれど。
主人公である馬淵を演じる麻生さんの存在感はなかなかリアルで、こういう役が多いのも納得してしまいます。ネガティブな感情を内に溜め込むタイプとでも言いましょうか?なんとなく共感出来ますし、外に出さない分礼儀をわきまえていると思います。真剣なまなざしと、真剣過ぎて空回りしていく様に非常に臨場感がありました。真面目だから手を抜けないのではなく、このやり方しか知らないし出来ないという不器用さを感じさせるのです。
中でも秀逸なシーンだったのが馬淵とある男の部屋でのシーンです。非常に上手いと感じました。
また、途中に特別養護老人ホームのシーンがあるのですが、良いシーンが多かったと思います。決して片手間に出来る仕事ではないと、強く思いました。
諦める事を認めた事がある人に、オススメ致します。
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