井の頭歯科

糖尿病専門医 西田 亙先生 のご講演

2017年3月8日 (水) 18:45

愛媛県でご開業されている糖尿病専門医の西田 亙先生のご講演を聞くことが出来ました。



糖尿病と歯科は実はかなり関連があるのですが、今回もとても驚くべき内容だったので、ここで少しまとめつつ、ご紹介したいと思います。少々順序を入れ替えたりもしています、あくまで私の勝手な解釈とお考えください。出来れば直接西田先生のご講演を聞いていただくのが最も良いと思いますが、残念ながらなかなかその機会は少ないので、少しでも拡散させていただけたら、と思いまとめてみました。


昨今はいわゆるフレイル(=虚弱 身体的にも、精神的にも、社会的にも、その繋がりが弱い事です)の問題が大きく取り上げられ、2025年や2035年問題(=団塊の世代が後期高齢者になる事による人口ピラミッドのアンバランスに付随する様々な問題の事)がクローズアップされています。


しかし、老人よりもさらに虚弱である子どもの問題の方が大きい!と西田先生は危惧されています。



糖尿病は他人事ではありません。


糖尿病は氷山の一角です。日本人は特に糖尿病に弱い民族です(この辺のお話しもとても面白いのですが、今回はざっくり、単純に膵臓にあるインスリンの生成が弱く、食生活の欧米化によってさらにそれが加速度的に悪化しやすくなった、とご理解下さい)。


糖尿病予備軍は厚生労働省は2000万人と推定していますが、これは間違っています。正しい疫学調査をしている久山町研究(私も不勉強で初めて知りましたが、大規模で長期的な疫学調査をされている、ちょっとびっくりするほどの精度の高い研究です。HP見ましたが、驚愕の実験です!)の結果を鑑みると、40歳以上の6割、およそ4000万人が糖尿病予備軍と考えられます。


他人事ではありませんよね?


某テレビ局でも報道されましたが「血糖スパイクが危ない」という番組が放送されました。簡単に要約すれば、血糖値の値はほぼ100位を示しているが、食事後に急激な上昇を示す血糖スパイクが危険である事を紹介しています。しかし、100平均の数値そのものが既に健康ではないと西田先生はおっしゃっています。


まず、この正常とされる治験者は誰か?と言えばそれは研修医です。20代の研修医が正常であるとは言い難い、と西田先生おっしゃっていますし、その根拠もあります。つまり血糖値が平均100くらいである事そのものが健康ではない、という事です。


確かに24時間モニターしていると正常な方にも波はありますし、その平均化したものを正常とする考え方もありますが、しかし本当の正常は食事をしてもHbA1cの値が上下しない、5%の方を言うのです。血糖一直線とお覚え下さい(笑)



他人事ではない、という事がご理解いただけますでしょうか?私も、おそらくこの95%に入っていると思います。


糖尿病の怖さはいわゆる逆さ仏です。



18世紀の仙厓和尚という方がおっしゃった言葉です。子が親より先に死ぬことを指しています。これが起こってしまうのが糖尿病の恐ろしさです。血糖値が高くても、ご本人の自覚を促すことが出来ず、甘いモノを摂取する事が出来てしまうからこそ、糖尿病予備軍を含めて4000万人まで蔓延してしまったのです。


メタボと糖尿病は、血管病なのです。だから恐ろしいのです。血糖値が少々高くても本人はなんともないまま、症状が進んでいくのです。


血管が悪くなると、心筋梗塞、脳梗塞、腎疾患によう透析、失明、壊疽、これが起こりやすくなるわけです。全身の血管が痛んでくるわけです。



西洋医学では病気と正常という分け方をしましたが、東洋医学では病気と正常の間に未病という考え方が存在します。この未病に相当する状態をアメリカ学会では前糖尿病と名付けています。



しかし日本には前糖尿病に該当する名前がありません。その代りになっているのがメタボです。西田先生はカタカナの外来語をあまり使用したくないとおっしゃっています(特に高齢者は理解できない事がおおいですし、ここは日本なんですし)が、いわゆるメタボを前糖尿病と呼ぶべきだとおっしゃっています。


特定健診でいう、メタボリック(男性で腹囲85cm、女性で90cmを超えている)、かつ空腹時の血糖値の平均値が100、という状況に値するのはHbA1cで言えば5.6です。


普通の診断基準で言えば糖尿病と診断する基準値はHbA1c126です。その数値と比べると非常に厳しい値だと思いますが、だからこそ重要なのです。


現実的に今、この値を満たしている子どもの数が急激に増大しています。


残念ながら、正常と言える割合は僅かに5%の方だけです。おそらくほとんどの方が、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシーと読みます)の数値で理解しているのですが、糖尿病学会でも、その根拠を示せていなかったと西田先生はおっしゃっています。

しかし、根拠はございます。


血糖値が100を超えると非常に糖尿病を発症しやすい。しかしもっと怖い事があります。100を超えると胃がんの罹患率が高まります、糖尿病患者の胃がん罹患率は2倍です。脳梗塞にも心筋梗塞にもなりやすくなるのです。



四国新聞の元旦の新聞の1面では『讃岐っ子は生活習慣病予備軍』という見出しが出ています。特定健診でHbA1c5.6以上の値を示す小学生の割合は15%であり、2012年からずっと増え続けているのです。しかも、子どもたちの肥満率はずっと下がっているのです。痩せているのにHbA1cが高まっているのです。

小学生4年生で、です。

もちろん高齢者のケアも重要でしょう、しかしもっと脆弱な子どもがこの値を示している、前糖尿病に値しているという事実は非常に重い現実だと私も思います。食生活が、生活リズムが崩れてしまっているのです。


習い事をしている子どもの3割が9時以降に帰宅しています。これは10年前のデータです、現在はさらにその状況は悪化していると思われます。帰宅する前に間食をしているのです。糖尿病患者にとって最も良くないことは夕食の時間が遅い、という事です(非常に心に突き刺さる言葉です、現在の私にとっても・・・)。子どもが中高年の大人のような生活を送っているのです。ヨーロッパであれば児童虐待に値するのです。


本気で考えなければいけないのです、プレミアム・フライデーなどを大人がやっている場合ではありません。


また、小学生が水洗式食事を行っているんです(水洗式食事とは、岡崎好秀先生の造語ですが、つまり噛むことが出来ない子どもの為に柔らかく飲み込みやすい食事形態の事です。岡﨑先生は今年の6月に行われる「よい歯の集い」でご講演頂きます!)。水分を多くしないと食べられないのです。口の機能、表情筋や口輪筋が鍛えられずに、機能が落ちているのです。



口唇閉鎖が出来ない、風船を膨らますことが出来ない子どもが増えているのです。


なにをやっているでしょう!資源が限られている社会で、亡くなられていく方と、未来の納税者のどちらを手厚く守るのか?とても重要な話しです。医療費が必ずかさんでしまうのです。


口の機能が下がる、風船が膨らませない、表情筋を口輪筋も弱る、だからこそ唾液の分泌が減少するので、味覚障害が起こりやすくなる、味覚障害が起こるからこそ、味付けの濃いものを好むようになる。これは糖尿病へのまっしぐらなスパイラルです。


運動不足で、夜型、単純糖質(精製しやすい)を詰め込み、口腔機能の未発達、だからこそ唾液分泌が減少、唾液分泌が減少する事で味覚障害が起こり、さらに味付けの濃いものを好むようになる、その事から歯肉炎が多くなり、炎症があるからこそ血糖値が上がり易くなるのです。


現在の日本では子どもを小さな消費者としか見ていないのです。



日本人の全員が反省しないといけません。


子どもたちの30年後、40年後を誰も考えていないのです。


そんな非常にネガティブな未来が予想されてしまいます。そんな心が折れそうになった時に西田先生が読む本があるそうです。


絶版になってしまいましたが「江戸の子育て」(中江 和恵著)という本です。



明治時代に来た外国人、旅行者であり「日本奥地紀行」の著者であるイザベラ・バードや、ドイツ人医師であるエルヴィン・フォン・ベルツらが、日本人の子育ては非常に素晴らしいと語っています。


本来日本人は子どもたちをいつくしんでいたはずなのに、この現状を変えるには歯科の存在が重要なのです。歯科外来がその部分を変えられるのではないか?と西田先生、糖尿病専門医の内科医の先生がおっしゃっています。


私も歯科の外来を行っている一人の歯科医として、少しでも未来が変えられるようにしたいと考えています。


もしこの文章の中に間違いがあれば、それは私の浅学が原因であり、西田先生の講演を聞いた私の誤った解釈です。

多くの方が西田先生のご講演を聞ける機会がある事を希望します。

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