井の頭歯科

「王妃オリュンピアス-アレクサンドロス大王の母」を読みました

2010年11月18日 (木) 13:48

森谷 公俊著     ちくま新書

やはりアレクサンドロス関連の本のひとつ。しかしこの本ではアレクサンドロスよりもその母親であるオリュンピアスを全面的に主題にされています。アレクサンドロスに大きな影響を与えた人物として、やはり父であるフィリッポス2世、そして母親オリュンピアス、また師であるアリストテレスという3人は外せないですし、その中でも1番良く分からない存在であるオリュンピアスについて纏められていて期待が大きかったのですが、非常に面白かったです。

オリュンピアスにまつわる密教的宗教ディオニソス信仰についての知識、そして蛇との関連は漫画「ヒストリエ」でも外せないギミックのひとつですし、ここで理解できたのは大変大きかったです。ディオニソスというからには、ギリシャ神話での酒の神様、そこからしか関連が見出せなかったのですが、非常に丁寧に解説されていますし、どのような信仰であったか?をある程度多角的に見れて良かったです。あのエウリピデスにも出てくるなんて知らなかったですし。

そして、同名の人物が多い中でもアレクサンドロス(アレキサンダー大王、アレクサンドロスⅢ世)の東征に対抗して征西を行ったアレクサンドロスの母であるオリュンピアスの弟のアレクサンドロス(モロッソイの王)の行動についても知ることが出来て良かったです。アレクサンドロスⅢ世に対抗した、というのはとても面白いと思いました。オリュンピアスの実家であるモロッソイ王国の成り立ちやその中にあるドドナ神託所についても、知らなかったことですし、当時の神々との関わりの一端としても、生活の中にいかに神性なるものが多く入り込んでいたのかが分かります。

また、アレクサンドロスⅢ世の関連する本の中でも圧倒的に男性の話しが多い中、この本はあくまで女性の登場人物を主眼に置かれているために、オリュンピアスはじめアリダイオス(アレクサンドロスⅢ世の兄で、後のフィリッポスⅢ世)の母であったフィリンナ、7番目の妃になるエウリュディケ、アレクサンドロスⅢ世の妹であり、モロッソイの王となったアレクサンドロスの妻でもあるクレオパトラ、アレクサンドロスⅢ世の最初の妻ロクサネ、愛人バルシネ、やはりアレクサンドロスⅢ世の妻でペルシア帝国の大王ダレイオスⅢ世の娘スタテイラ、などの立ち位置、背景、それを押し立てた勢力の存在も分かってよかったです。あくまで女性は駒のように扱われている中での、老練と言えるオリュンピアスやとても激しい軍人王妃であるアウダタとその娘キュンナ(フィリッポスⅡ世の娘でもあり、アレクサンドロスⅢ世とは異母兄弟)の顛末は何か執念のようなものを感じます、それ以外の手段は何も無かったでしょうし。

アンティパトロス、ポリュペルコン、という人物について、ディアドコイ戦争と言われるアレクサンドロスⅢ世の後継者争いに巻き込まれる様々な女性の立場、それに関わったペルディッカス、アンティパトロスの息子カッサンドロス、そして少しだけ記述されているエウメネスについての関わりが分かりやすかったです。

一夫多妻制の光と影、血脈という武器しか無かった当時の女性、そして1番びっくりなのがアイガイというマケドニアの古都で発掘された墳墓の存在を知れたのは良かったです。

オリュンピアスとアレクサンドロスⅢ世に興味がある方にオススメ致します。

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