井の頭歯科

「ブレードランナー2049」を観ました

2017年11月6日 (月) 17:04

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督      アルコン・エンターテイメント コロンビア映画

最近忙しい上に疲れてたり、気分的にも落ち込む事があったり、でしばらく更新出来てなかったんですが、再開致します、誰も読んでないんでしょうけれど、そういうのじゃなく記録として、文章に置き換える事で頭の中が整理出来る気がするんです。

正直、前作のブレードランナーがそんなに好きだったか?と聞かれたら、そうでも無くて割合普通かな、くらいです。ヘンテコな映画としては「未来世紀ブラジル」の方がヘンテコで好きです。でもまぁ確かに記憶に残ってます。

2049年のLA。最新型のレプリカントであるK(ライアン・ゴズリング)は逃亡したレプリカントを追って解体(殺害)する事を仕事にするブレードランナー。上司であるマダム(ロビン・ライト)に酷使されて孤独な生を生きています。ある農場で追い詰めたレプリカントのモートン(デイブ・バウティスタ)の件により、重大な秘密を知ってしまい・・・というのが冒頭です。

とても内省的な映画だと思います。あまりアクションシーン無いです。なのでアクション期待していかれると肩すかしを食らう可能性があります。でも、とにかく良く考えた脚本です。まぁツッコミどころも多いんですが、その辺は役者さんの演技の頑張りで割合気にならずに観れました。
ネタバレ厳禁な作品ですので、あまり深く追求は出来ませんが、役者さんはみなさん素晴らしかったです。特に主演のライアン・ゴズリングは、まさに正統派の演技で魅せてくれます。また上司役のロビン・ライトが嫌になるくらいネチネチした態度を見せてくれてそれも面白かったです。

また今作で最も儚い演じどころのアナ・デ・アルマスさん、そして彼女の見せ方がとても上手いです。こういうの観ると、本当に昔考えていた未来が来てるな!と思ってしまいます。

人とは何か?魂とは何か?境界線とは一体誰が何のために設けているのか?そんな事を突きつけてくれる作品です。宣伝コピーにある『知る覚悟はあるか?』という問いかけの意味、冒頭で発せられるある人物のセリフ『奇跡を見た事がないからだ』という部分、大変伏線として良いと思います。

SF作品が好きな方、前作の「ブレードランナー」が好きな映画な方に、オススメ致します。

アテンション・プリーズ!

それでも、ちょっとネタバレを含んだ感想を書いてみたくなります。割合最初にその衝撃がありますし。
というわけで、ここからネタバレあります。未見の方はご遠慮願います。

ライアン・ゴズリングの冷静にしていないと自身の解体に繋がりかねないからこその自制、表情の乏しさ、しかし目にうっすら感じられる哀しみ、自分が何者か?である事、特別である事を知りたいと願いつつ、その記憶さえ植え付けられたものかもしれない(なんとなくインセプションを思い起こさせる設定)という閉塞感、すべてを悟りきって諦観しているように見える演技、良かったです。これはゴズリングで本当に良かった。しかし名作に次々と出演する王道感、スゴイです。

ロビン・ライトの嫌な上司感も素晴らしかったです。ホントこういう人の下で働きたくないなぁ。一見、レプリカントに理解があるように見えて、心の底では全く信用していない上、だれよりも理解を示している私の言う事を聞け、という態度が嫌ですね。

記憶を作るアナ・ステリン博士(カーラ・ジュリ)の無垢なる感じも良かったです。そうか、あの涙は、彼女には、この後どうなるか?ある程度理解していたんだな、と感じました。見た事ない女優さんですけど、なかなかの美人、無垢なる系で演技も出来そうで良かった。

同じレプリカントでありながら仕事(子ども解体)をすることで創造主であるウォレス博士(ジャレット・レト)の全幅の信頼を得ようとするラヴ(シルヴィア・フークス)の演技も良かったです。蹴りが凄い!整った顔立ちからは少し離れた凶暴性が恐ろしさを増します。そして、結局のところ、ラヴにしても自らの尊厳を獲得する為に動いているのかと思うとまた哀しいです、せつない。フークスさんも初めて(?)だと思いますが良かったです。

そしてデッカード(ハリソン・フォード)・・・正直一番今回出演している中で割り喰ってると感じました、もちろんデッカードを見つけるクエストな訳で仕方ないけどね。ほぼ何もできない傍観者になってしまっているのが・・・もう少し、レイチェルのその後の何かを知っている、だが何も言えない秘密があり、だからこその抵抗を試みる、というシーンがあっても良いと思いましたが、もしかすると、これは今後の布石なのかな?とも思いました。レプリカント解放運動の旗手としてのステリン博士との次回作への為のものなのかな?と。まぁあの館での、Love me tender決闘シーン、非力になってしまったからこその仕掛けの数々は良かったんですけど。

最後に、犬!良かった!あの、電気羊しか持てなかったデッカードが犬を飼えている事がある種の奇跡!でも酒をカーペットにこぼして与えるのはどうかと思うし、次のシーンだとカーペットじゃなくフローリングになってるのはちょっとどうかと思うぞ。

で、ストーリィですが、もちろん穴もあるんですよね・・・でも、まぁ飲み込める感じがしました。そしてなにより、人間、人造人間という判別が一見してはワカラナイからこその、何が現実で、何処が現実でない不明瞭な不安感を与えられた世界に住んでいる、心の荒廃感は良かったです。人造人間レプリカントである事の悲哀も十分に理解できるし、人間側の、作っているのではあるが、人間よりも高度な能力を持っている事への恐怖が、人間もどきという別称を使う事で留飲を下げる事しか出来ないダメ感も良かったです。

そのレプリカントの最新型であるKの尊厳を踏みにじっても、消し去りたい繁殖能力がある事への恐怖。確かにありそうです。でもだったら何故レプリカント同士じゃなかったのか?とか、生殖能力を付与しているのも人類なんだから、そこだけ変えるなり、なんらかの警報がかかるシステムを作り上げればよかったんじゃ・・・とかいろいろ疑問は湧きます。だって前作にも出てるけど性の慰み系セクサロイドって言ってるんですよ?当然避妊に対する何かを考えるのが普通でしょ?極端に言えば去勢する事だって出来る訳ですし。まぁこのレプリカントはクローン技術の上に成り立っているのであれば、また違うんでしょうけれど・・・でも、だからこそ、レプリカント同士の生殖を扱うのが普通なんだと思うけどなぁ。

んで、やはり1番気になるのはジョイ(アナ・デ・アルマス)ですよね。この設定が素晴らしい。恐らく、誰しもが持てるただの幻影、ある種の夢です、実体は無いけど。でも、そこにデータが蓄積され、ある種の自立性が確立できるのであれば、それを自我ではない、と断言する事に私は抵抗を感じます。唯一今作で『愛してる』という言葉を発しているのは実体を持たないジョイただ一人だった気がします。これは自我、魂なんではないのか?という何処に判断の基準を設けて良いのか?という不安感がフィリップ・K・ディックの小説、原作の持つ不安感と相まって良かった。しかもそれを体現しているのがレプリカントと身体を持たないデータでしかないジョイである事に深い悲しみを感じます。でもね、確かにこれは一種の狂気ですよね、こんなん居たらだれも現実世界の相手を探さなくなると思いますけど。

この主題を扱うのに、時間がかかってしまったんではないか?ある程度の回り道をする事になったのかな?と思うと、まぁ尺に関しては仕方ないかな、と。アクション大作、と銘打っているわけではない、続編ですしね。

後レイチェル、確かに美しいんだけど、良く出来てるんだけど、多分、そう作っているんだろうけれど、やはりなんか違う感しか感じなかった、あの特徴的な髪型含めて。なんか作り物感があって仕方なかったです、CGの、CGっぽさをわざと残しているように感じました。

前作の世界の見え方、それもあの当時の(と言っても私が見たのは多分公開後数年経ってたと思います)荒廃感やディストピア感の進化を私は感じられました。単純に新しいものと古いモノの交じり合った混沌に多言語の標識、酸性雨、分かる、分かりますよ!新しい!って感じましたよ。でも、それが目に見えて少なくなっていく、新しいものに置き換えられていく世界観、ある種の壁の中でしかその現実も無くなってしまっている感じを、私はディストピア感として感じられました。壁の中でさえこの程度なのに、壁の外は荒廃というより不毛の地に見えましたし。もっと雑多な感じは前作にはあったけど、今作では繁華街以外に人はまばら、人口の極端な減少を表しているのかな、と。原作がそうだったし、惑星移民が始まってる世界なんで、汚染された地球にしがみつく方が少数派な訳です、放射能汚染での生殖を一方的にはく奪されかねない世界なんですし。まぁそういう説明は映画内では本当に少ししかないけど。

さらなる続編ある気持ちで制作してると思うけど、結構こけてるという話しだし、ステリン博士のレプリカント自治権回復運動、革命戦争編は観られないのかなぁ。

しかし、よく考えると、Kの、自分が選ばれし者ではなかった後、とてつもない孤独の中、誰にも繋がらず、唯一の心の拠り所であるジョイさえ奪われ、恐ろしいまでの虚無感に包まれた後、最後に、父であったかもしれない、デッカードを娘に会わせる、という一点のみで、最後に利他的な行動をとる部分に、表情さえ変えずに、どうにか頑張る部分がアガりますね。どう考えてもどうにもならない、人として扱ってもらえない、その上ある種の原罪(同族殺し)も背負い、それでも、な部分が本当に泣ける。アナ・デ・アルマスとの絡みも泣けてしょうがない。 まぁだからと言ってなんでラヴがラスベガスでKを殺さなかったのかなぁ、という疑問とかはホントどうでもいいんです。

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