井の頭歯科

「魔笛」モーリス・ベジャール バレエ団 を観ました

2017年11月27日 (月) 14:25

没後10年になるのかと思うと早いですね、振付士モーリス・ベジャールさんのバレエ「魔笛」を観てきました。

「魔笛」を最初に知ったのは映画「アマデウス」を見た時だったと思います。オペラは全然見た事が無い前半生でしたので。その映画で出てくるのは有名なパパゲーノのシーンでした。コミカルな感じなのかな?と感じていましたが、なかなか壮大な、とても複雑でいかようにも取りようのある、懐の深い、未完成だから持つ想像の許される部分と、音楽としての完成された素晴らしさがある不思議な舞台だと思います。繰り返して聞いていても、ずっと繰り返して聞けてしまう曲だと思います。曲そのもので言えば、やはり序曲が最高ですし、フィナーレのフィナーレ感あふれるのも凄いです。

で、オペラの作品をバレエにしているのですが、セリフも挟まれる、割合普通のオペラに近い形でのバレエ作品でした。ベジャールの作品ですから、もっと抽象的な演出になっているのかと思っていたのですが、そうではなく、ベジャール色の弱い、音楽に忠実な幕モノ舞台芸術だと思います。

そもそもモーリス・ベジャールという振付士の偉大さ、独特さ、そしてアニキとさえ呼べる強烈なカリスマ性を考えると、かなりモーツアル色の強い作品だと思います。まぁベジャールに関して話しを始めると私ごときでは言及を憚れる人物だと思います。一般的に名前が轟いている事がその人の価値を決めるわけではない事は当然としても、もっと名前だ知られて良い人間であり、振付士としての偉大さだけでなく、その言葉にも哲学者のような重み(父親が哲学者ですし)を感じる事が出来ます。私は全然詳しくないのであまり何も言えないのですが、本当に少し知るだけでもその山の高さを想像できるくらい、スゴイです。たとえば、ですが、ベートーベンの交響曲第9番をバレエ作品にしたことがあるのですが、インタビューに答える形で、この交響曲第9番のテーマは?と聞かれて一言「人類皆兄弟」と答えられる強さと説得力があります。その交響曲第9番も素晴らしい作品でしたけれど。(そういえば年末にベジャールの振付した交響曲9番の映画「ダンシング・ベートーベン」があるので楽しみ!)

主役はもちろんタミーノなんだと思いますが、そこはやはりバレエ作品ですので、セリフを読む役として弁者という役が創作されています。この弁者の見た目が非常にベジャールに寄せている感じがしました。ベジャールが語り掛けてくるように見えるのです。序曲がかかる中五芒星の中にたたずむ弁者はまるで、現代の聴衆に向かって新たなバレエ作品として「魔笛」を語るベジャールを印象付けるかのような演出でした。今作の良さは非常にたくさんありますけれど、ライティングは中でも非常に良い仕事だと思います。

タミーノを演じるガブリエル・アレナス・ルイスの丹精な顔立ち、佇まい、身のこなし、王子にしか見えないです。まさに主人公顔、主人公体つき、いわゆる高貴さを醸し出していて、素晴らしかったです。誰かに似ているんですが、肉体的には首藤康之さんでしょうか?もしくはデニス・ガニオをもう少し華奢ではないんですが、現代的に絞った感じといえば伝わるでしょうか?まさに主役を演じるに値する方でした。
パミーナを演じるカテリーナ・シャルキナの肉体美も相当です。もちろん衣装も非常に美しくソリッドな見栄えなんですが、素晴らしかったです。パミーナから印象すると私個人的には少し芯の強さが過ぎる感じも受けましたが、多少気になるくらいでした。

モノスタナトス役の方は非常にアグレッシブ且つ技巧的な方でピルエットの切れ味が鋭く、まるで残像が見えるようです。オペラでは割合コミカルな歌声な方、いわゆる道化のような役どころのように、音楽からは感じられていたのですが、このベジャール版では非常に動きのあるキャラクターになっていました。見せ場多いと思います。

そして今回1番強い印象に残り、場面に出てくるだけで緊張のトーンを変える事が出来た人物、ザラストロ役のジュリアン・ファブロー!ものすごかったです!1幕の登場シーンはまさに圧巻でして、個人的な意見ではありますが、ザラストロと言えば、ダークで重い印象を勝手に持っていましたが、衣装も金色ですし、その肉体美が恐ろしいまでに重厚。それでいてザラストロの存在感が凄いです。振付の細かな事はワカラナイのですが、重心を低く、それでいて高貴な振る舞いを感じさせ、その細部には日本的な動きもかなり感じられました。今回の演者の中ではどうしても舞台に立っているだけで、彼こそが中心であることを、受け手の目線が自然に集まってしまうのが当然、という雰囲気に溢れていました。

全体的に舞台装置も非常に凝った形になっていまして、上下2段に舞台が分かれています。そして上部は狭いのですが、そこに激しい踊りではなく、人間の身体を使ったある種の象徴を、神々の視点かのような造形美を、陰影を上手く使って表し、下段の現実世界と思われる部分で主な演者が踊りにて表現し、そこに上下で相関関係、補完関係を映し出されると、非常に神々しく見えます。3人が一対になっての上下での連動に、そこに男女の逆転があったり、様々な趣向を凝らしていて驚かされます。

振付については私はその意味、連続性、等分からない事だらけなんですが、ベジャールという個性、その影響を感じられました。

バレエが好きな方に、魔笛が好きな方に、ベジャールが好きな方にオススメ致します。

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