井の頭歯科

「ハッピーエンド」を見ました

2018年12月12日 (水) 09:11

ミヒャエル・ハネケ監督    ロングライド
2018年見逃し後追い作品その8
あの、ハネケ監督が、タイトルにハッピーエンドってえ!という事で見ました。だって、ハネケ監督ですよ・・・まず、ハッピーエンドなわけないじゃないか、と。
フランス、カレーに住む裕福な一族に、ある家族が新たに向い入れられます。祖父(ジャン=ルイ・トランティニャン)、娘で実質的な家長アンヌ(イザベル・ユペール)、弟で外科医のトマ(マチュー・カソヴィッツ)、その妻アナイス、アンヌの息子で粗野なピエールという家族の基に、トマの前妻の子どもで13歳のエヴ(ファンティーヌ・アルドゥアン)が、前妻が薬物にて危篤状態に陥ってしまったためです。エヴにはもちろん秘密があるのですが、家族それぞれにも秘密を抱えており・・・というのが冒頭です。
これは!!今年の公開作品の中でもベスト級の作品でした、流石ハネケ監督!!!!
それぞれに秘密を抱えている家族を、遠景から、またはSNSから、時にはiphoneの動画録画から、果ては監視カメラ映像まで使って、誰か、何をしているのかを観客にも理解させずに、赤裸々な秘密を織り交ぜるやり方で、非常にサスペンスフルに魅せてくれます。状況は理解出来ても、誰が何をしているのか、には推理が必要で、その辺の匙加減が絶妙に上手いです。
ショッキングな映像的演出は、ほぼありません。が、ある意味とてもショッキングな出来事が起きています。家族という檻の中の、ある種の地獄を描いた作品です。
監督の前作「愛、アムール」(の感想は こちら )のある意味続編を描いています。
相変わらず、ジャン=ルイ・トランティニャンが素晴らしい演技です。もうそういう人にしか見えません、名作「男と女」の人としてではなく、私には「愛、アムール」と「ハッピーエンド」の人に≪なってしまいました・・・また、イザベル・ユペールの、大変傲慢で、それでいて母親でもあるのに(でもこの人の子供はマザコンにはならない気がする・・・)、実にしたたか。そりゃ会社の社長的な立場には適任でしょうね、私は一緒に働きたくは無いですけど。なんだかポール・ヴァーホーベン監督作品「エル」(の感想は こちら )の続編のようにも感じてしまいました・・・その息子ピエールの閉塞感も一入でしょう、この人が私には被害者に見えました。ええ、もちろん自業自得なんでしょうけれど。でもある趣向を隠して生きている人に見える演出なんですよね・・・その辺も含めて母親との関係性の粗野加減に、哀しみを感じます。
忘れられないのがマシュー・カソヴィッツさんです。何しろ、あの「アメリ」の彼ですもんね。でも最初分からなかったですよ・・・年取りましたね、いや、私もですけど。とても複雑な人間を演じていて、そう言われると、そう見える、というのが凄い。いや、実際にそういう人を見た事ないけど、世の中にはいるらしいという噂でしか知らないですけど。
しかし、今作はとりわけエヴを演じているファンティーヌ・アルドゥアンさんが主役の映画だと思います。子供の純真さ、誰もが望んでいて、しかも自分も通ってきた過程であるのに、通って来た人の中でもとりわけ親になった事がある人に特に「こうであって欲しい」的な欲望を抱く人が多いと思います。それを、崩すというよりも、思い出させる、という点においてハネケは素晴らしい。子供ってかなり残酷で手加減を知らないですし、そういう生き物だと思います、まだ詳しくないから言葉にし難いだけで、思う事は出来ていると感じるんですよね、個人的には。
で、このエヴの眼差しの鋭さ、観察者としての冷静さ、と何処かに同居している無関心さが大変鋭く切り取られていて素晴らしいんです。大変整った顔立ちをしていますし、何処までが演技なのか、微妙ですけれど、今年見た映画の中では「万引き家族」(の感想は こちら )のショウタくんとこのアルドゥアンさんは飛び抜けて良かったです。どちらもハンサム!そしてクール!
ブルジョワジーな生活の中に潜む秘密、広く興味を沸かせるトピックだと思います。でも、フック(個人的造語で、興味を持ってもらうためのエサ、という意味で使ってます)が強い分、落差も大きいわけで。そういう意味でも驚きがあって良かったです。
ハネケ監督作品に興味のある方の入り口として、「愛、アムール」を観た方にオススメ致します。

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