ウェス・アンダーソン監督 20世紀フォックス
好きな監督、と言いたいけど、フィルモグラフィー上は監督作9作中僅か1作しか見ていないので、そんな資格が無いんですけれど、そんな監督のストップモーションアニメーション作品と聞いて、観なければ、と思いつつ、劇場に行けなかった作品なので、DVDで見ました。
2018年見逃し後追い作品その13
クレイアニメとはまた少し違った感じの作品です。とにかく、触ってもいないのに、手触りを想像するに優しい雰囲気、命の無い物体に、命を吹き込めるかのようなクレイアニメを含むストップモーション・アニメーションが私は好きです。その中でも、人間よりも動物を主役にされるとより偏愛傾向が強くなってしまいます。今回はそれが犬であり、しかも舞台が日本!という事で期待値はかなり上がってしまいましたが、その期待値に答えてくれる素晴らしい作品でした!
20年後の日本、メガ崎市。小林市長は犬による感染症の恐怖から、すべての犬を島に送り込む政策を推し進めています。しかし、同時に民主国家として反対意見の陳情を許し渡辺教授に、感染症には血清が出来上がりつつある事を述べさせます。しかし、その政策を手緩いと批判、強権的に自身の政策を強行するのです。一方、小林市長の養子である天涯孤独の身のアタリ少年12歳は、自分の犬スポッツを犬が島に送られた事に憤慨し、単身犬が島に潜入するのですが・・・というのが冒頭です。
もう素晴らしい作品です。日本への愛とか、動物への愛に溢れています。とても細やかな演出、微細な美術、日本文化への憧憬とも言える感覚、オブジェの美しさ、美術の素晴らしさ、すべてが満足出来るレベルにまで昇華されています。
もちろん、日本人からすると、『メガ崎市』というカタカナ+漢字という表記や、相撲や和太鼓の表現、等に違和感を覚える人もいるかも知れません。が、私は監督ウェス・アンダーソンにとっての日本文化とイマジネーションと、尊敬の念を混ぜた結果のファンタジーとしての日本を描いた傑作だと感じました。だって犬が英語で喋ってるんですよ、この1点に置いても、この映画のファンタジーに乗って楽しめば良いじゃないですか。しかも日本人キャストには日本語を喋らせていても、同時通訳的な演出をしているんです。素晴らしいアイディアだと思いますし、日本文化へのリスペクトを感じました。
犬を、愛犬を探す少年と、捨てられた犬5匹の旅の映画って聞くだけで、かなり心がウキウキするじゃないですか。途中に能のような演出があったり、和テイストな音楽が多用されていたり、日本文化に対する想いと、そこに遊び心あるファンタジーが相まみえた世界、ずっと見ていたくなるようで、私は凄く良い作品だと思います。
また、民主国家であるから反対意見を述べる場を作りながらも、その場には狂信的で暴力的で手段を問わない荒くれものを集めているかのような状況の中で行う所にも、なんだか昨今の日本の政治状況を揶揄するかのような描写で秀逸でした。あくまで、民主的な手続きを踏んだ、と言う事実だけを欲しているのがうっすら透けるのが、本当にリアル日本社会の象徴であるかのように感じます。
【ちょっと愚痴りますけど、本当に、マジで、独裁国家みたいですね、最近の国政。普通、議会を通す段階で不備、もしくは欠点がある場合、それを修正する事が議論を深めた結果なんじゃなかったでしたっけ?馬鹿にして取り合わない、議論を深めるどころかするつもりがないのであれば、国会そのものがいらなくなる独裁に繋がる恐れ、真剣に危惧するに値する段階だと思いますね。ねじれ国会ってそもそも議論のやりがいがある状態なんじゃないんですかね?玉虫色の決着、それが議論を深めた結果なんじゃないですかね?相手に敬意を払わない輩を議員に選んじゃダメでしょう、そういう小心者で度量の狭い人は議員という交渉事には向かない人ですよ・・・権力者に最もしちゃいけない人なんじゃないですかね、そもそも尊敬に値しないです、政府も与党も、野党も・・・愚痴り終了】
英語表記と日本語表記の入り混じった世界で、まるでブレードランナーの世界にも感じられますし、恐らく、ですけれど、小林市長の造形が三船敏郎に見えなくもないんですよね。そういう意味でもリスペクトに満ちた作品です。
また、よくあるギャグマンガでの争いの最中を描くのに、大きな煙があって、そこから手足や顔をリズミカルに出して動かす手法を、このストップモーション・アニメで描いている部分、すごく懐かしく、それでいて斬新な手法だと感じました!すっごく面白く心動かされます。
これは同監督の「ファンタスティック・Mr.FOX」を見なければ!と強く思いました。
で、それでも、な部分もあって、私はネコ原理主義派なので。これが犬じゃなく猫だったら完璧!何しろ猫も出てくるんですけれど、全然喋らない上に、とても薄っぺらな扱いを受けていて、大変残念です。
もう1点の不満ですけれど、ネタバレを避けての感想なので伏せますけど、〇〇虐待者を死刑では行き過ぎなので、25万円の罰金とボランティア、と法律を変えてしまっているのですが、これは大変問題のある修正で、間違いだと思います。個人的には行き過ぎではないと考えていますし、出来れば同じ目に合わせた上で、その後執行したいですね。
日本文化とファンタジーに興味のある方、ウェス・アンダーソン監督のファンタジーに興味のある方、獣愛好家の方、犬派の方、ストップモーション・アニメーションに興味のある方にオススメ致します。
コメントを残す