井の頭歯科

「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」を見ました

2019年1月28日 (月) 08:18

ノア・バームバック監督       Netflix

ノア・バームバック監督、今までに「イカとクジラ」という1作しか見ていませんが、良かった印象が残っています。今回はタイトル通り、マイヤーウィッツ家の物語を描いています。

ダニー(アダム・サンドラー)は40代後半、娘イライザ(グレイス・ヴァン・パタン)を連れて父であるハロルド(ダスティン・ホフマン)の家に向かっています。ダニーは娘イライザが大学入学と同時に離婚する事になっていて、とりあえず父ハロルドの家の居候になる予定ですが、父の再婚相手のモリーンの手料理はなんとなく気が引けます。妹のジーンも集まってちょっとした家族会議になりますが、ハロルドは彫刻家でアーティスト、気難しがりやですし、家族の仲は決して良いとは言えないのですが・・・というのが冒頭です。

この作品はコメディになっているんですけれど、家族間の問題、継母とか異母兄弟とか、かなり複雑な家族関係を扱っていますので、面白いと感じる部分と、確かに面白いんだけど笑ってしまうのは不謹慎なのでは?とか考えさせられる部分の混じり方、脚本と演出が大変見事な作品だと感じました。

特に、ズルいくらい嵌っているのが父親ハロルドを演じているダスティン・ホフマンです。もう笑わせてくれます。こういう感じの人、確かに居ますね!もうただのトラブルメーカーなんですけれど、筋の通ったところもあり、完全に避ける事も出来ず、まして家族であれば、ある程度の時期、空間、生活を共にしなければなりません。その中で起こる葛藤が大変リアルで面白く、また、その葛藤が立ち上がる瞬間の自然さも相まって演出としてわざとらしくなく、大変良かったです。

家長というものは、大変重い責任のような何かが圧し掛かっていると思います、大変だと思います。恐らく、日本で言えば父親が担う事が多いと思います。このマイヤーウィッツ家でも、父親として尊敬もされています。が、この父親ほどの問題の多い人間が(人は皆問題を抱え、右往左往しながら、五里霧中で人生を終えるとしても!)、パーソナリティに問題を抱える人間が、家族を構成し、その責務を果たさなかった時、もしくは、家族内の他者から責務を怠っている、と感じられるている時は、遺恨が残ると思います。このハロルドの場合、都合4度の離婚を経験していますし、アーティスト芸術家とはそういうエキセントリックでエモーショナルな人間だとしても、家族内では父なり母なり息子なり娘である事を演じさせられますよね?演じているつもりではなくとも、無自覚に、です。つまり割合、いやかなり、自分勝手な人間が父親になる事で、生じる家族内葛藤はいかほどに影響が出るのか?がこの映画の醍醐味だと思います。

アメリカンニューシネマが終わる70年代後半くらいから、まぁ私は1970年生まれなので、自我が芽生えるくらいからずっと(ディズニー映画ではもっとずっと)、いわゆる家族がどれほど素晴らしいものか?を映画の中では事細かに、幾度となく繰り返される永遠のテーマのひとつだと思います(多分残りは2つあって、『死』と『愛』ですよね)。家族が大事、家族は仲良く、と言われて思春期を育ったものですが、私個人がひねくれているのか、恵まれすぎているのか、不明ですけれど、それだけじゃないとは思いますし、私の趣向はどちらかと言えば、この映画で描かれているようなディスコミュニケーションや家族内の断絶、もしくは掛け違い、さらに言えば血族というどうしても外しようのない繋がりとの距離の取り方だと思います。家族が大事、と言い続けなければいけなくなったくらい、危機に瀕しているとは思いますけれど。それだけ個人が、重要視されてきたわけですし、テクノロジーもまさに個人の欲求を叶えるべく進歩しているように感じます。何時の時代にも、家族という名の閉じた地獄もあります。

閑話休題

でも、基本的にこの映画はコメディです。最終的な着地点は、とっても素晴らしい家族映画と言えます。父で芸術家でかなりの自分勝手なハロルド、長男ではあるが期待を裏切った事で引け目を感じているダニー、中間子で唯一の女性でありながら心情的にはダニーに近いもののやはり距離のある妹ジーン、末っ子で異母兄弟でハロルドからは1番好かれているのに父との葛藤を強く感じて家を出たからこそダニーから疎まれるマシュー。この4者の関係性に加えて、その周りを彩るのが、ハロルドの現在の妻モリーン、長男ダニーの娘イライザ、マシューの母、あたりでしょうか。様々に入り組んだ一家の悲喜こもごもを描いたコメディ映画、楽しゅうございました。

家族のいる人に、オススメ致します。あ、『パジャイナマン』という本当に凄い短編が劇中劇として挿入されていますけど、これちゃんと見たい。

“「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」を見ました” への1件のコメント

  1. […] すけれど、最近だとやはりNetflixの「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」(の感想は こちら )がかなりよかったので期待しましたが、期待値をはるかに超える良作でした。そもそも […]

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