永井 荷風著 角川文庫
作家であり、著者永井を思い起こさせる大江(は実は父親の姓、まあ本人と捉えて間違いないのではないでしょうか?)の1人称で語られる余韻の深い、空白を生かした短編小説です。大江が書き出そうとしている小説内小説「失踪」の取材のために、その結末にリアリティを出すためにも、現実の世界を知ることが、その界隈の空気を、人通りを、匂いを作品に滲ませることが重要だと考え、散歩を繰り返すうちに出会った女「お雪」との関係を記した作品です。単純に言ってしまえばそれまでのものなのですが、非常にどの場面、どの記述、描写、心情の吐露している部分にまで、余白を残し、余韻を感じさせるつくりになっていて、受け手の想像や考えをめぐらせる作品です。
その当時の世界を描き出し、その中での窮屈さを感じ取っている大江の、永井の、その認識が面白かったです。非常に繊細かつ粋な物語。ただ、私は40歳になってしまっているのに、いわゆる日本の文化的側面を全く捉えられていない、という自分にも気が付かされます。およそ明治の人々とは遠い未来に来てしまっているのだ、という実感でもあります。
情緒、という言葉を改めて考えさせられました。
しかし、よく考えると、この永井さんも相当に偏屈で、頑固とも言えるとも思いますが。
スタイルある生活、というものに興味のある方にオススメ致します。
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