スパイク・リー監督 パルコ
2019年見逃し後追い作品 その7
スパイク・リー監督作品は、そんなに観ているわけではありませんが、しかしスパイク・リー監督作品にしか無い何か、が確実にある監督だと思います。やはり強烈だったのは「マルコムX」ですね。「ドゥ・ザ・ライト・シング」は内容をすっかり忘れてしまいましたが、衝撃的だった、という事だけは覚えています、観返さないと。多分90年代だったと記憶していますが、かなり忘れちゃってますね・・・
1972年、コロラド・スプリングス。警官の募集を目にしたロン(ジョン・デヴィッド・ワシントン)はアフリカンアメリカンです。髪型のアフロも決まっています。そんなロンは警官の仕事に大いなる誇りを持って臨んでいるのですが、しかし・・・というのが冒頭です。
ロン役のジョン・デヴィッド・ワシントンさんは初めて見ましたけれど、なかなかキレのある演技で良かったです。もちろん、バディを演じるアダム・ドライバーが最高にイイです。この人はまだ映画界に入って短いですけれど、本当に様々な役を演じ分けていてスゴイですね。何しろ最初がカイロ・レンかと思いきや、Wikipedia情報によると、もっと前から映画に出演されているんですね。全然知らなかったです。
映画が始まって最初に出てくる映像が、『風と共に去りぬ』の、有名な駅前での負傷兵のシーンなんですけれど、もうこれで、不穏感満載です。しかも、この映画はこの『風と共に去りぬ』だけでなく、もう1本のとても有名な映画も扱っていて、それが『国民の創生』なんですね・・・もう壮大な大風呂敷が広がった感しかしないです。
え~ただ、割合名作ってことになってますけれど、私は20代の前半のあるお正月に、それこそ映画が好きになり始めていた初期の頃にこの映画を観て、激しく落胆しました。どこが面白いのか誰かに教えて欲しい、と強く思ったのを覚えています。主人公の女性が、何をしたいのかさっぱり分からない上に、ヒドイ癇癪持ちに見えて、大変嫌な気持ちになりました、しかも4時間もかけて、です。そしてその評価は今も変わらず、です。曲は良いけどそれ以外はさっぱりな駄作、と、今でも思ってます、観返したら違うかも知れませんけれど、4時間あったら違う事しますね。ここまでわがままで自分勝手な主人公を据えた映画で評価されているのが全然理解出来ません。もちろん因習に纏わる女性の厳しい現実を潜り抜ける事への希望は描かれていたかもしれませんが、それも結局のところ、自分のわがままを通すために、という部分しかなくて、最後のシーンに至るまで、何処かで面白くなるんだろう、と期待していただけに、本当に時間を無駄にした感覚しか残らなかったです。でも、名作という事になってますね。
そしてもう1本の『国民の創生』ですが、こちらも名作という事になっていますが、未見ですけれど、かなりの問題作でもあると思います。あまりに有名なので、見ていないのにある程度筋を知っていますし。そして、大変人種差別的な映画でもあります。それどころか、レイシストを賛美するような映画とも言えます。
私も生きている人間ですので、自分が差別されるのは嫌ですし、誰かを差別したりしたくありません。人類学上、人間はすべてホモサピエンスでしかないですし、まして肌の色では分けられません。しかし、レイシストという人種差別主義とは少し違うかもしれませんけれど、何かを差別、軽蔑する事は、その事に劣等感を抱いていたり、他者を蔑む事で、自分を正当化したり、優越感を得るために行っている事だと思うと、自分はそうはなりたくないので、注意したいと、思っています。良く分からない物事には特に注意しないといけない事を思い出させてくれます。最近特にそういう場面に出くわす事が多くなってきたので、麻痺しないようにしたいです。人種もそうですけれど、天下国家など、大きい物事や事象を単純化する際には気をつけたいです。特に親しい人がそういった言動をとると悲しくなったり、距離を取りたくなってしまいます。
また、当然KKKを扱ったストーリィなんですけれど、なんかこのKKKの人たちが、すっごく嫌な人に、ちゃんと見えるのが怖いです。当たり前ですが役者さんが演じているので、当然演技なんですけれど、物凄く、嫌な奴に見えます。特に急進的な信徒であるフェリックスの人は、本物の人を連れてきたのかな?というくらいリアルな演技でした。そして、非常に高圧的で、自我が肥大し、その肥大した自我を埋めるだけの自信もなく、短絡的に凶行に走る様が、大変に恐ろしかったです。ここまで何かを憎む事が出来るのも、人の想像力のなせる業かと思うと、人間の可能性の負の部分を感じずにはいられません。そしてさらに恐ろしいのが、フェリックスの妻、です。この妻がフェリックスに輪をかけて、考えていないが、しかし、夫の信頼を勝ち取るために、より派手な行動を起こす、という短絡さが恐ろしいです。
特に、スパイク・リー監督作品は、常にこういう差別主義者や、自覚の無い差別者に対して、差別される側の視点を、迫害される側の肌感覚を、理解させる『気付き』に満ちた映画を撮る人だと思っていて、非常に考えさせられます。今作も、そのラストに、大変評価の別れる、ある現実の事象を差し込んでいます。
この現実の事象を入れる事で、大変ショッキングな映画に仕上がっていると思いますし、忘れられない映画になっていると思います。ヘヴィですけれど、入れずにはいられなかったと思います。
今でも、そしてこの日本でも、様々な差別があり、完全に縁を切る事が出来ない問題を扱った作品。出来れば生きている人全員観た方が良い映画だと思います。生きてる人に、オススメ致します。
アテンション・プリーズ!
ここからちょっとだけ、ネタバレしますので、未見の方はご注意下さい。
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非常に良く出来た作品だと思います。閑職に回され、普段から蔑まれたロンが、その言葉で、危険な潜入捜査に加わり、迫害をする相手を言葉巧みに騙すわけですから、大変スッキリします。でも、そこで終わらせてくれないのがスパイク・リー監督作品。
最後の現実を突きつける映像が入る事によって、私はよりスパイク・リー監督作品になったと共に、このある種娯楽映画を観ながらも、現実は大変厳しく、良くはなっているかもしれないけれど、相変わらずヒドイ現実がある事を理解させて終わるのは凄いと思いました。未だに、感情をコントロールできず、他者をコントロールしたい人が、武器を手に、車を暴走させ、凶行に及ぶ世界に生きている事を思い出させてくれます。
一時の笑いも必要ですし、そもそもフィクションとしての映画という娯楽ですが、しかし現実に、リアルに、主義主張が異なるだけなのに、相手を人間とみなさない人がいる世界に生きていて、この映画を観ている、という事を思い出させてくれます。でも、一時の笑いで終わらせちゃいけない、終わらせたくない、現実を見ろ、と言ってる気がしました。そして考えろ、とアジテートしているのだと思います。
主義主張を先鋭化させると、妥協出来なくなりますが、あまり物騒な世界にはなって欲しくないです。もう少し寛容さが必要だと思いますけれど、生き延びるだけで過酷な状況になれば、ルサンチマンが溜まれば、冷静で寛容でいられなくなるのかも知れません。
また、全然知らなかった事件ですし、その悲惨さと大衆の熱狂が生み出した悲劇、ジェシー・ワシントン リンチ事件の事を知れて良かったです。歴史的な事件の場合は、様々な検証を必要としますし、現代の感覚で断ずる事は出来ません。しかし、無かった事にしないように、語り、文章や写真を伴って検証できるように記録して 半永久的に残す 事が必要なのはどのような立場の人にとっても私は共有できる知恵だと考えていました。が、どうも2019年の日本だと違うみたいですね。これでも支持できるのって結構凄いと思います、これだともう意思疎通が出来ない感じがします、まさに違う生物として考えはじめられそうです、そしてこういう所から差別が生まれるのだと思うと、私も差別主義になりかねない、とは言え言葉が通じない、という恐怖とどう向き合えば良いのか?全く考えが及びません。このコミュニケーションの断絶に、どのように対処したら良いのか?本当に恐ろしいです。
[…] ブラック・クランズマン(の感想は こちら )も凄かったですけれど、やはりブラックユーモアあふれる作品でもありましたが、そこはスパイク・リー監督の真骨頂というか、マンネリ […]