アーロン・ソーキン監督 Netflix
もちろんジェセフ・ゴードン=レヴィットが出演しているので観ました。あんまり興味無かったのはタイトルが何を指しているのか不明ですし、正直この邦題は少々カッコ悪すぎます。私が無知だから、シカゴセブンについて、全く知らなかったのは私の落ち度ですけれど、シカゴ７裁判ってネーミングはちょっとセンスを疑います。私が邦題をつけられるのであれば『世界が視ている7人』的なニュアンスを入れたいです、私の案もすっごくダサいですけれど・・・
もちろん非常に重要な局面を描いた立派な映画だと思いますけれど、スピルバーグの「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」の時と同じように、リベラル派がこの映画を観て溜飲を下げる構造になってて、その辺がとても気になるし、障る感覚があります。
しかも、凄く込み入った裁判、3つの被疑者グループ、その中のキャラ分けは出来てても、組織上の違いが良く分からないのが問題です。まぁ多分私の頭が悪いせいだと思いますけれど・・・。
で、追い詰める事になるシュルツ検事をジョセフ・ゴードン=レヴィットが演じているのですが、仕事上、やむを得ない状況に置かれている中での正当性を担保するための、その正義感が素晴らしく良かったです。結局、唯一別件であったであろう事がはっきりしているボビー・シールが除外されるのも、この検事のおかげだし、プライベートで出会った時であっても、話さない事を選択する上、裁判の最後のシーンで敬意を払う姿勢を貫くのが本当に素晴らしかった。
そしてよく見かけるジョン・キャロル・リンチが見られたのも凄く良かったです。
とはいえ、この作品の主人公は明らかに、アビー・ホフマン（サシャ・バロン・コーエン）です。
生粋のコメディアンで自虐的で破天荒、常に何らかの抵抗を試みている人物ですが、私はこの人物を尊敬出来ます。自覚的に、相手が何をしている事になるのか？を揶揄するか形で示していて、且つ同時に、はっきり笑える要素を盛り込んでいる部分に、反骨精神とも少し違う真剣さがあります。恐らく、常に真剣に全力でふざけているわけです。それも深く考えつつ。なかなか出来る事ではありません。めちゃくちゃ頭の回転が速く、本質的な事を見抜く観察眼も必要としていますし、アジテーターの能力も高くないと成立しません。
ふざける事も出来なくなった世界は、それは何処か歪んでいると思うのです。東京ポッド許可局が言う「なんでも2項対立で考える事の視野狭窄さ」だと思います。グレーな事をグレーなままにしておけない幼さ、精神科医春日武彦先生の言う中腰で耐えるチカラ、中腰力で解決出来ないもどかしさを抱え続ける胆力のような事が必要だと思います。
だから、この映画の中でも、その後の顛末を字幕で説明してくれますけれど、アビー・ホフマンの顛末は、リリシズムを感じます。もっと重く扱うべき事柄だと思います。映画はこの辺を意図的に避けて通ってしまっている感じがします。
対照的な未熟さを伴いつつもリーダー的なトム・ヘイデン（エディ・マリウス・レッドメイン）のキャスティングは良かったと思います。相変わらず嫌な役目を（「レ・ミゼラブル」でもマリウスという嫌な役を引き受けてくれています）担って頑張ってくれています。しかし、非常に視野狭窄で未熟な人物でもあると思います。心の衝動感情を優先させ、表出する事で、溜飲を下げてしまっていると思うのです、その結果、社会が、制度が変わらないと、また同じことが繰り返されますし、結局この人の視野や考える射程の短さだと思うんですね・・・でも、こういう熱のある人が先頭を歩く事で拡大する運動があるのも理解出来ます。この辺が難しい話だな、と思います。
それと、物凄く存在感のある、裁判長がいけすかなさ過ぎます。この人が1番嫌悪感を持たせてくれます。ハッキリ悪意を感じるのです、中立性を担保すべき役目を負っているにも関わらず。
裁判、という三権分立がある世界であったとしても、時の政権の息がかかり、裁判長という中立的な存在を脅かされた状況で裁判を戦う事への教訓に満ちた作品だと感じました。こんな裁判官がいたら、司法制度が持たない気がします・・・司法試験を通っててもダメな人っていますから・・・
しかし、サシャ・バロン・コーエンがカッコイイなぁ。
あ、完全に蛇足なんですけれど、絶対全部は読ませてくれないと思います。そういう映画的演出が、溜飲を下げる方向にばかり配慮しているのが、反ってマズいと思います。
裁判映画が好きな方に、オススメ致します。
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