井の頭歯科

「竜とそばかすの姫」を観ました

2021年8月17日 (火) 09:59

細田守監督     東宝

映画好きな友人が観に行って、悪くはないんだけど、なんか、う~ん・・・というお話しを聞いて、じゃ観に行ってみようかなと。私は感想が文字にしてみないとまとまらないので、長くなりますがつらつらと。

アテンション・プリーズ!
普通は良い部分を解釈したいですし、観に行く人が増えて欲しい、そう思っています。いますが、時にはあまりそれがあまり感じられない映画もあります。もうこの文脈で何となくご理解いただけると思いますが、私の好みの映画(がそもそも少ないのかも知れませんけど・・・)では無かったですし、監督の意図が正直あまり感じられませんでした。そしてこの作品が好きな人には不快な気持ちになる文章なので、読まなくてよい、ただの一個人の感想で、つまらない難癖だと思います。思いますが、それでも文章にしないと自分が何を感じたのか?が自分でも言語化出来ないので、このような文章にしているわけです。でも、そんなの読みたくない人には読まないで欲しいと思います。
ネタバレもあります、未見の方はご遠慮ください。

ネット上の仮想世界U(ユー)では、イヤホンから自分の身体に同期して、隠された才能を基に自分の分身がカスタマイズされてネット上に表現されます。母親を事故で失った少女すずは、現実では田舎に住む人前に出る事を極端に嫌う高校生ですが、Uの中では歌姫ベルとなって注目を浴びる存在なのですが・・・と言うのが冒頭です。

細田守作品では好きな作品と嫌いな作品があり、ちょっと調べてみると、好きな作品=脚本を監督が書いていない、という事が分かりました。今作は監督自らが脚本を書かれています、つまりあまり私個人の好みでは無かった原因は、ココにある気がします。

大筋として、『美女と野獣』をやりたかったのは理解出来ましたが、現代にアップデートするのが難しいからなのか、アップデートする気が無いのか、どちらでも結果は同じなんですけれど、まぁタイトルに『姫』となっているので、お姫様の話しなんです。女の子はみんな姫なんでしょうね。違うと思うけど。男の子だってみんな王子じゃないはずです。私は女子じゃないので分かりませんけど。

『美女と野獣』を現代版にアップデートするのって、無茶苦茶ハードル高いです、凄く遊びが少ない、でもそれが古典作品の強みでもあると思います。つまりベタなんです。ベタを飲み込ませるには、そのベッタベタの本筋の魅力(役者とか声とか演技、演出も含んでいいと思いますが)で、観客を感嘆させなければならない、だから、凄く、凄く難しい。その事にチャレンジしているのはとても素晴らしい事だと思います。しかし、アップデートはされていないと思いますし、ただ単に現代を舞台にした、と言うだけに感じました。

最初に良かったところを。最大の良いポイントは、絵が、作画が最高です、最大級に褒めてます。逆にいうと、そこだけなんです・・・

2021年の日本の今ですと、あのディズニーでさえ(と言っても私はディズニーが嫌いなので全然見ていないのですけど、漏れ伝わるところによると、です)受け身で王子に求婚される、というキャラクター像からの脱却(多分、そもそも王子的な立場が出てこないとか、自らのやりたい職業で生活するとか、女性同士のバディ関係とか)を図っていると聞きます。よく言われますけれど、お姫様が結婚した後が大変なんじゃないか?と。そこに美貌的な価値、もしくは若さの価値を置くと、どんどん相対的に価値が下がるのも一因だと思います。

で、今作なんですけれど、仮想世界Uの中の自分の分身は、自らカスタマイズするのではなく、イヤホン型の『何か』をはめる事によって、自動的に、身体性から割り出された、勝手に作られた、キャラクターなんです。ここが凄く残酷。主要登場人物は、ある意味整ったキャラクターなんですよ・・・でも、いくらなんでも、なモブキャラクターが多くて、それはいくら何でも、と言う気がしました。私だったら、このキャラクター設定で、多分デブメガネ頭でっかちで非力なキャラとしてデザインされるでしょうし、それはそれで、理解は出来るのですけれど、キツいです、流石に。それに、ある、非常に現代的とも言える虚栄心の塊のような人物が出てくるのですが’、そのキャラクターには、子供の格好で可愛らしいから文句を言われないとでも思っているのか?というこの仮想世界Uの設定を崩すセリフもあって、こういう細かな点で自らの設定、この世界のルールを崩してしまうのも凄く、気に触ります・・・全然監督いや、脚本が好きなわけじゃないじゃないか、と感じてしまうからです。

「美女と野獣」の多分、ミュージカルの方をやりたいんだと思うんです、歌姫を扱っていますし、今作は『歌』の強さがどうしても必要なんです。そして、50億人が利用している仮想世界Uの中で日本語歌唱でも響く歌、その説得力が、残念ながら私はあまり感じられませんでした。もちろん良い歌だと思うし、歌唱力だって、歌詞だって凄くイイんです。でも、50億人の仮想世界のUの中でこの曲、この歌い手が評価されるってどうしても思えないんです。

すずこと、ベル(このネーミングも高校生だから仕方ないにしても、『鈴』過ぎると思うのですが・・・)が唄う時に周囲に黄色い文字で横スクロールで現れる文字が、恐らく翻訳的な事を指し示しているんでしょう(英語なんて読めませんけど、でも、こことても翻訳歌詞とは思えない文字もあったので、何となく演出ありき、なのかも。そういうのも、いやだ個人的には萎えます)。でも歌なんですよ、歌詞で評価されているわけじゃないんです・・・そんな感じで、この仮想世界Uの50億人というのが、多分、かなり盛った世界で、極東のうちの国の中での話しとしか思えないんですよね。それ以外の、いわゆるネットの誹謗中傷や匿名性を扱った悪意の、その表現が、すっごく日本的だし、狭いのです。感覚として中学生?もしくは高校生くらいの悪意なんです。世界はもっと広いし複雑だと思うんですが、視聴対象を考えるとこれくらいに収めておこう、という感じに見えちゃうのが、醒めると思います。いくら子供相手であっても、もう少し悪意の鋭さを出さないと、いくら何でも、と思うんじゃないでしょうか。あくまでオジサンの個人的な感想ではありますけれど。50億のUじゃなく、ネット掲示板の○○高校スレッド、みたいなムラ社会に見えるんですよ・・・

あくまで、可愛そうで、みんなに(結局のところ、主要キャラ全員)好かれているすず、に感情移入していれば、申し分なく楽しめる作品だとは思います。凄く、可愛く描かれてもいますし。そばかす、以外の欠点って何かありますでしょうか?私はすっごく感情の起伏の激しい方で、泣いたり笑ったりが急展開過ぎて、エキセントリックな人にみえました。よく言えば感性豊かですけれど、日常生活を送るには大変疲れる、とても自律できていない人に見えます。でも昭和の少女漫画の世界だったら普通にいます。隠れた才能を、自分の好きな人にだけ評価されていて、外の世界にはなかなか出せない内気な少女。そりゃ好感ありますよね。Uの世界のキャラクターは当然にしても、そのベールが明かされる瞬間の、身体的な、手足の細さや肌の色とか、全然違いが無くて非常にご都合主義的に見えました。そのプロポーションでさえ、リアルは違ったりするのが現実のような気がしますけれど、これもオジサンの難癖でしょう。

で、相手になる幼馴染の男の子が、もうこれはくらもちふさこの少女漫画の王子なんですよ、どう考えても。幼馴染で、運動神経よくて、もちろん美男子で、学校の人気者で、説明もしないのにすずの事を気遣ってくれて、彼女っぽく扱うけれど、否定も肯定もしない。男性なら「そんな人はいない」思ってしまう程の完璧な王子。そう結局『美女と野獣(の姿はしているけれど王子)』なんですよね。そういう意味ではそのままです。

それと、Uの運営が杜撰過ぎるのは、警察組織がいらないって決めているのに、自警団としての組織に、個人特定の装置を持たせてるのって、これ、私刑を許しているのと同じで、どう考えてもやはり50億の人が気軽に楽しめる運営の組織規模じゃないです。やはり50億は相当に盛ってる数字だと思うのです。そもそも非常に誇大広告をしているUと言う仮想世界なら、とてもありそうですけれど。

それに、この自警団の何と言いますか、純朴過ぎる正義への希求が、幼い。今時のアメリカのスーパーヒーローモノだって、そして日本のウルトラマンとか仮面ライダーだって、もう少し複雑な正義への葛藤と闘ってると思います。いくらなんでも幼過ぎると思うのですが・・・

最後に。あんまり触れたくないんですけれど、一応、児童虐待について。

これは触るべきじゃなかったと思います。そんな単純な話しじゃないし、すずだけが新幹線で東京に行って街で偶然会って、大人に立ちはだかるってもういろいろ偶然が重なり過ぎだしちょっとやり過ぎです。確かに話しを畳まなくちゃいけないというのは理解しますけれど、脚本として破たんしていると思います。それに、児童虐待は、一瞬で解決する問題じゃないです。なのに、みんなでなんか一件落着、すずよくやった!ってこれは当事者の怒りを買う覚悟があるのでしょうか・・・
久しぶりに、あまり良い所が見つけられなかったです、まだまだ映画を観る目が無いのだなぁと痛感しました。映画が吹きな方だったら、きっとどんな作品でも楽しめるのではないか?と思うのです。

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