井の頭歯科

「ゼロシティ」を観ました

2022年1月18日 (火) 09:31

友人からお借りしました。好みの作品でした、いつもありがとうございます!

モスクワからかなり離れたある街に降り立つ男ヴァラーキン(レオニード・フィラトフ)はホテルに向かうのですがタクシーは1台きりですし、街全体にもやがかかっていて・・・というのが冒頭です。

何と言いますか、確かにカフカっぽい不条理なんでしょうけれど、カフカというよりは間違いなくこれは「ツイン・ピークス」デビッド・リンチ監督の影響を感じますし、これ絶対笑っていいのか?いけないのか?のギリギリを責めている作品です。それもかなり壮大なお金をかけている、と思われます・・・ロシア映画としては、という事になるかもですけれど。

私が今までで1番見返しているドラマは間違いなく「ツイン・ピークス」です。大学時代にレンタルビデオやに朝早く並んでみた作品です。もちろん、字幕でも吹き替えでも、多分10回は観ていると思いますし、とにかくこの世界が大好きになってしまいました。不条理さが前面に押し出されつつ、ミステリーであり、オカルトな作品ですが、同時に笑ってはいけないのに笑ってしまう瞬間が散りばめられた素晴らしい作品です。

そういう意味でデビッド・リンチ監督と同じなんですけれど、笑いのセンスとして、笑っている人が演者の中に出てこない、演じている、映っている人は誰1人として笑わそうとしていない、しかし何かがオカシイ、という笑いです。こういう笑いは私はセンスを感じますし、好みです。誰でも笑っている人の声を聴いていると笑いたくなるのですが、それは本当の意味での笑いではなく共感しているのではないか?と思うのです。しかし、不条理な笑いに知性を感じます。それに誰も傷つかないです。他者を貶めて笑うのは結構下品な行為ですけれど、まぁその人がスケープゴートになると、それ以外の全員の結束が異常に強くなるTHE・日本的な感じを私が受けるからかもしれません。

主演のヴァラーキンを演じているレオニード・フィラトフさんの困り顔が哀愁を感じさせてくれます。それに「そうだ!蝋人形って生きた人間の肌感を暗くして動かないようにすれば経費削減!」とかの思い付きで始めたかのような、異常に現場の人がキツくなるだけ、まばたきも出来ないから多分やたらとCUTがかかったであろう事が映像からも分かる感じで修羅場だったんだろうな、というシーンも凄かったです・・・

そして基本的には説明をしているようで全くしないので(言葉の意味性がどんどん失われていくのがサイコー)、よりどんどん言葉巧みに、現実感を薄れさせる感覚を徹底的に連続して起こしているので、どんどん訳が分からなくなっていくのですが、演者や撮影スタッフ、監督に映画に関わった全ての人の苦労を考えると、真剣に俺は何をしているのだ?という瞬間がたくさんあったであろう事も理解出来てより深い感覚になりますし、それでもちゃんと笑える。

もちろんとある秘書は面白いんですけれど、現実に居たら、きっと嫌でしょうし、ラッキーって感覚は個人的には無いかなぁ・・・目のやり場に困るし日常には向かないと思います。親密になればこそすれ、日常では、ね。

それとケーキは、ちょっとどうかと思うけど、かなり似てますね、相当大変だったでしょうね。でも、そのかなり大変に作ったケーキを、何の思い入れも無くナイフとフォークでの切り取り方が本当にリンチ作品の匂いしません。ロシアにもフォロワーを作り出したデビッド・リンチ監督はやはりただものでは無い、と改めて感じました。

不穏さと不条理。そしてその積み重ねで意味を失う言葉や現実、その上でのもう何が何やらで起こる笑いには、リリシズムさえ感じさせます。だって私の現実だって、よく考えると大して変わりないですよ、まさに不穏さと不条理の連続でしかない。しかし、これを日常としていくしかなくて、それをことごとく考えていくと、狂気になっていくのではないかと思うのです。

大筋すら決まっていなかったけど、そこを無理くり繋げるスリリングで意味不明にしてやろう感がたまりませんし、個人的には博物館のシーンがサイコーでした。

ロシア映画の世界もかなり広大なんでしょうねぇ。

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