ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア著 伊藤 典夫、朝倉 久志訳 ハヤカワ文庫
12作の短編を収めた短編集なのですが、いわゆるSFというジャンルだけに収めきれないスケールの大きさと、斬新さにかなりびっくりしました。プロローグにあたる著者ジェイムズ・ティプトリーに関連する話しは、私個人としましては男でも女でも、面白い話しを書けるのは凄いことだと思うのでどうでも良い気がしましたが、しかし覆面作家に興味惹かれる方もいるのは理解出来ます。
中でも斬新で凄いと思ったのは、着想から語り口まで含めこれこそサイケデリック!という「すべての種類のイエス」(ヒッピーたちはリチャード・ブローディガンよりこっちを読むべきなのではなかったのか?とか感じました、もちろんブローディガンも好きですけど)、想像させ臨場感を持たせるカタルシスが最後の最後に来る構成がとことん上手い「楽園の乳」、キング作品としてのプロットでもおかしくないくらいのものをわざとその読後感をザラりとしたものにするための見せ方に特化した(なんかコレはいろんな映画の元ネタになってるんじゃ・・・)「エイン博士の最後の飛行」、この短編の個人的ベスト!最も洗練されたコンピューターは頭脳でありモノを買わせるには有名人に持たせるという広告代理店の虚飾を描いたものでもある「接続された女」、印象として私にとっての『ティプトリーとはこういうものだ』と決め付けてしまった衝撃を持つ世界の半分を占める性別の違う他者から見た世界の成り立ち方を理解させる「男たちの知らない女」、ものすごくクールなSFと感じるトピックひとつを丁寧に扱った「断層」、表題作でもあり確かに斬新な「愛はさだめ、さだめは死」、この放り投げっぷりはさすがの「最後の午後に」です。
正直に言えば、スタイルとして斬新なだけ(たとえば「愛はさだめ、さだめは死」とか)なものもありますが、そのオリジナリティは決して色褪せていませんし、何よりこのスタイルと文体とテーマに対するアプローチの仕方のレパートリィの広さがとんでもないクラスです。この中の1篇を書くレベルの作家さんはいると思いますが、同じ作者が書いたとは思えないほど手法も様々で素晴らしいです。「すべての種類のイエス」と「エイン博士の最後の飛行」と「男たちの知らない女」が同じ作者だと感じられる読者は少ないと思います。
短編SFが好きな方にオススメ致します。
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