夢枕獏著 集英社文庫
映画「神々の山嶺」パトリック・アンベール監督の方を先に観ていましたが、どうやら原作とはだいぶ違うとの話を聞き、読んでみたくなりました。
夢枕獏の著作を読むのって何年ぶりだろう・・・
1993年、中年ばかりのエベレスト登山チームが撤退、登頂もならなかったばかりか、滑落死を2名出してしまう・・・その隊のカメラマン深町は、帰国を先延ばしにしてカトマンドゥに滞在しているのですが・・・というのが冒頭です。
映画版は、かなり端折っている、という事が分かりました。集英社文庫の上下巻ですので、当然と言えば当然なんですけれど、かなりアツい登山家羽生丈二の生涯を追いつつ、実際の主人公はカメラマン深町だという事が、この小説を読んではっきりしました。
これは、デビッド・フィンチャー監督「ゾディアック」と同じように、ある事象や事に憑りつかれた人間の話しだと思います。
なんで登山をするのか?という問いにG・マロリーが答えたと言われている有名な言葉
「そこに山があるからさ」
を、どういう事か分かる小説、とも言えます。
山をやる、という表現、日本語で今まで聞いたことが無かったので衝撃ありました。名詞が動詞になる、という衝撃です。でも、その切実さを理解させる言葉だと思います。
羽生丈二、という人間を、エゴイストとみるか、ロマンチストとみるか?で評価は分かれるでしょうけれど、両方を持った人物ですし、妥協をしません。ある種のハードボイルドな世界の主役になれる男でもあり、生活破綻者とも言えます。
映画版ですと、主役は羽生で、語りべとしての深町なのかと、思ってましたが、原作を読むと、全然違った、と感じました。主役は深町だと思います。
羽生や深町ほどに、1つの、これ、と言うモノがある人は、幸せだと思いますし、それを他人がどうのこうのいう話しではないです。ですが、常識的な考えからすると、狂人に見える事もある、という事だと思います。
狂人に見えたとしても、社会から認められなくても、自分が納得すれば、それは良い事だと言えます、同じ集英社文庫の絶版になってしまった、村上龍の仕事の中で個人的に最高の仕事だと言えるリチャード・バック著村上龍訳「イリュージョン」と同じベクトルの話しだと思います。
これは、所謂キャサリン・ヴィグロー監督「ハート・ブルー」に出てくるスリル・ジャンキーとは似て非なるモノだと思いました。
ハードボイルド、もしくは山をやってる、もしくは山をやっていた人にオススメします。
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