井の頭歯科

「関心領域」を観ました

2024年6月4日 (火) 09:10

ジョナサン・グレイザー監督     ハピネットファントム・スタジオ     吉祥寺アップリンク
2024年公開映画/2024年に観た映画  目標 36/100です。 現在は13/53
なかなかに恐ろしい映画でした・・・
原作未読ですが、これは読みたい。そして、現実のとある一言を聞いたことがある、という事実から、着想を得たもちろんフィクションです。ですが、フィクションだからと言って逃れられない映画だと思います。大変に射程が広い作品。
ネタバレ無しの感想です。
一言でこの映画を言い表すのであれば、
『お前の事だぞ』
という事に尽きると思います。
予告編でもなんとなく伝わると思いますし、この映画の肝ではない舞台の話しなのですけれど、第2次世界大戦のドイツ占領下のポーランド、オシフィエンチム。有名な名前で言うとアウシュビッツ。ユダヤ人収容所と壁一枚を隔てた場所にある豪華な邸宅はアウシュビッツ収容所所長のルドルフ・フランツ・フェルディナンド・ヘスの家族が暮らす家なのですが・・・というのが冒頭です。
大変奇妙な映画だと思います。基本的にカメラワークがズームする事が、恐らくほぼ無かったと思います。そして、音響とか音声とかが特殊。
関心領域、という邦題ですけれど、原題はThe Zone of Interest タイトルというか翻訳って本当に難しい事で、正解が無いかも知れない、と考えてしまいます。
ただの家族の映画に、観ようと思えば見れます。あと、音を全部シャットアウトして、字幕を付けたら、そう見えると思います。でも、音があると、それだけで、全然違う。
舞台は確かに特殊な、非常に特殊な時代で場面です。ですけれど、この映画のテーマは物凄く広いです。
ホモサピエンスは、共感とか理屈とか感情とか論理とか、五感とかモラルとか様々なものに影響、さらに刷り込みと言える教育を受けて、取捨選択をしています。ですが、認知出来ない事に対しては、何も出来ないのですが、うっすらとでも、見て見ないふりをしている事について、考えさせられる映画。
同時代に世界で起こっている様々なニュースとして、知ってしまえる世界に暮らす人にオススメします。
アテンション・プリーズ!
ここからはかなり核心的ネタバレを含んだ感想になりますので、未見の方はご遠慮ください。
基本、映画を観た感想は、公式のHPとWikipediaくらいまでしか調べてないですし、映画を観て感じ取った感覚で、他の人の感想とかも聞かない見ないでやってるのですが、今回の原作のきっかけになったのは、ルドルフ・フランツ・フェルディナンド・ヘスの妻の所属替えに伴う引っ越しへの強い拒否を、召使が聞いていた、という事から着想を得ている、というのを知れたのは良かったです(Wikipedia情報)。
大豪邸とは言え、アウシュビッツと壁一枚隔てただけの家なので、常に環境音として、恐ろしく想像させられてしまう響きがあります。しかも、カメラはズームもしないし、まるで覗き見ているような感じなのです。それもそのはずで、家を複製して作っている上に(それなのに、実際のアウシュビッツで撮影を行ってる!つまり、わざわざアウシュビッツに建てたわけですね・・・)、隠しカメラのように埋め込んでいるので、役者は何処から撮られているのか?がワカラナイ様になっています・・・徹底ぶりが凄い・・・
なので、恐ろしいまでの自然さが、演技なんでしょうけれど、カメラを意識しない自然さが、随所に見られます。冒頭に近い部分で、妻が毛皮のコートを鏡の前で着飾るシーンがあるのですが、自然過ぎるんですね。おそらく、寄れるカメラならズームをしたり、まんざらでもない、という表情をもっと明確に撮ると思いますが、それが無い。本当に自然に見えます。
水辺でのピクニックも、なにもかも自然なんですが、音だけが異常に違和感があります。なにしろ悲鳴や銃声が遠くない、壁一枚向こうで行われているのです、それも絶え間なく、虐殺が行われている。
そして、この邸宅の家族は、赤ちゃんを除いて、全員、子供でも何となく、知っている。
男の子が2名と女の子が2名いて、さらに赤ちゃんがいるのですが・・・
上の男の子は少し、権威主義が感じられます・・・それもごく自然に身についている感じ。下の女の子は完全に精神的に不安を抱えています・・・症状として、ベッドに居られない・・・もうかなりの切迫した状況です。でも、大人は誰も何もしない。
妻は、この夢にまでした邸宅を、自らの聖域を、何をしても守るつもりで、それしか頭に無い。その妻の母親は、確かに大邸宅で、見事な庭で、召使に傅かれていて、何不自由ない生活を送っているし、素晴らしい事なんでしょうけれど、それがアウシュビッツ収容所の隣り、という事に耐えられず(というか、普通無理)、会話さえなく出て行きました。恐らく非難する手紙だったのでしょうし。
音も恐ろしいのですが、匂いは、もっとだと思います、言及はされなかったけれど。
関心のある事だけにしか、関心が無い事の恐ろしさを描いた傑作。
妻役の人、そういう風にしか見えないので今後の人生が心配になるほどです・・・
あと、wiki調べだと、あの白黒反転する暗視カメラのようなのは、恐らく、ポーランドのユダヤレジスタンスなんだと思いますけれど、これが、実在の人物の、実際に使われた自転車で、来ている服装も当時のものだそうです・・・こういう人も居たわけです。
誰しも、自分の欲望なり生理現象なり好ましい中で暮らしていたいし願望を叶えたい。世界の遠く離れたニュースにいちいち共感していられないという事実はあるものの、だからといって、この妻のようにはなかなかなれないと思います。同時に、アドルフ・フランツ・フェルディナンド・ヘスを含んだナチのように、アーリア人幻想も、ユダヤ排斥も、今なら間違いが認められている優性思想に基づいた民族虐殺まで、更に実際に殺人を、それも効率を求めて、人間としてみていない感覚を持たないと無理な所まではなかなかいかないと思っているけれど、それは、ごくごく小さな変化から起こった現象だと思います。
だからこそ、無意識に、ヘスの身体にも異変が起こり、あのジャンプが起こるのは、とても強烈でした。
映画からは常に、
お前の事だぞ
と問われている感覚がありました。
と同時に、ホモサピエンスって慣れないといけない事にも、慣れてはいけない事にも、慣れる生き物だと思います。そうする事で情報の自動的な取捨選択を、情報処理のリソースを、有効活用していると思います。
という事実を知っておいて、だから、常に考えろ、という事なんですけれど、それが面倒という人に、説得するにはこの映画を観ていただくのが早いのですが、そういう人は見ないでしょうね。
で、それがまさに、凡庸な悪を許容する、見て見ぬふりで蔓延する、悪への協力なんだけれど。という事を想起させる映画体験。
tbsラジオのセッションで、この映画の特集をされているので聞いたのですが、ハンナ・アーレントの凡庸な悪の意味は、実はもう少し複雑らしいのですが、確かに、私、アーレントの著作、読んでなかった・・・こういう時に原著を読んでいるか?いないか?で全然違いますね・・・教養がある、というのはそういう事だと思います。
この音響を作った人の精神状態も心配。

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