井の頭歯科

「クラス」を読みました

2011年7月21日 (木) 15:14

エリック・シーガル著       扶桑社エンターテイメント

読みかけの本を仕事場に忘れてきてしまって、読む本を探していたら目に留まったのでつい、自分をアッパーにしたい時に読むこのエリック・シーガルの著作2つのうちの1つ(もう一つは「ドクターズ」角川文庫です)を手を出しました。久しぶりに読み返しましたが、今読んでもとても面白く、気持ちもアガります。

1954年にハーバードに入学した5人の、立場は異なる学生の学生時代と、その25年後にハーバードでの同窓会までの間のそれぞれの成功と、苦難と、転向と、挫折と、幸せと、その他人生に起こるであろう様々な事柄を描いたドラマです。

名門エリオット家の子孫であり、心優しいが体力は無く優柔不断でプレッピーなアンドリュー・エリオット、天才ピアニストでありながら屈折した親子関係と女性視を持つダニエル・ロッシ、何もかもに恵まれ皆に愛されるスポーツマンで人気者ではあるがユダヤ人であることを消されてアメリカ人として育ったジェイソン・ギルバート、ハーバードの近くに生活圏があったために羨望も大きかったギリシャ移民の努力家で内省的なテッド・ランブロス、そしてハンガリーからの亡命者でありアメリカ人に意図的になった冷静沈着な利己主義のジョージ・ケラーの5人のそれぞれのあまり交わらない学生時代と、もっと交わらない卒後の生活を主眼に置きながらも、誰しもが経験せざるを得ないドラマを醒めた視線で楽しめます。

大学生という、多感な時期であり、大人でありながらしかし未だ生活の手段を親という庇護者に頼らねばならない曖昧な時代の特殊性と、アメリカという日本とは違った積極的チャレンジ精神に裏付けされた裕福で恵まれた環境の中での生活は、かなり私が体験した世界とは異なりますが、時代設定も50年代ということを考えると、それもまたリアルであろうと理解出来ます。結婚や仕事や政治に対しても真摯であれた世代から、徐々に世界そのものが複雑になって行き、ベトナム戦争を介して常識が崩れていく時代性を、ヒッピー世代を親に持つことになる彼らの様々な葛藤が、ある意味極端な事例ではあろうけれど、十分乗せられてしまいます。キャラクターが非常に立っている、それも世代的リアルに裏づけされて、といえます。

疑似体験するかのような50年代から70年代への流れとその中でもがく個々人の生活と密着した停まることのない時間の流れをリリカルに描いた、しかしエネルギッシュな作品です。

アメリカの大学に、ドラマティックな小説(とは言いつつも単純ではない)が好きな方にオススメ致します。

ジェイソンの人生の転機の突然さと価値観の転換の大きさに、ロッシの全てを手に入れた男の手の届かないモノ、テッドの払った代償、ケラーに訪れるカタルシス、そしてエリオットの凡庸さの重み、それぞれに説得力があります。素晴らしい物語だと思います。

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